第16話 聖夜

 人間が色鮮やかな夢に浮かれ、享楽に耽っていても、邪神の侵略は、直ぐ側まで迫っているのだ!

 クリスマス、この幸せなイベントでさえ、既に邪神の侵略を受けていたのだ。


「きょうは、街がピカピカなのです」


「イルミネーションで光っているのです」


「クトゥルーも、触手が光るのです」


「もっと、街をピカピカにするのです」


 クリスマスの飾りつけに快くした邪神は、さらに侵略の手を進め、次々に街のゴミを片付け始めた!

 ついに、邪神が人間の殲滅に掛かったのだ!

 その証拠に、邪神の眷属たちの服は真っ赤に染まっている。

 何と恐ろしい事か!


「おじいさんの服が赤いのです」


「髭も生えたのです」


「今日は、サンタクロースの格好をしているんじゃよ」


「サンタクロース……悪者そうなのです」


「袋にゴミが入っているのです」


「倒すのです」


「これはプレゼントじゃよ。クリスマスには靴下を吊るしておくと、サンタクロースがプレゼントを入れてくれるんじゃよ」


「クトゥルーも、プレゼント貰うのです!」


 邪神はクリスマスを侵略するために、河川敷で触手をくねらし這いずり始めた。


「あったのです」


「靴下を見つけたのです」


「洗って干しておくのです」


 何という事か!

 邪神が靴下を手に入れてしまった。

 夢と希望のプレゼントが、邪神の絶望に塗り替えられてしまう。

 クリスマスは既に邪神の手に落ちていたのだ!


「朝になったのです」


「朝は寒いのです」


「見るのです! 靴下がパンパンになっているのです」


「プレゼントが詰まっているのです」


 ついに、邪神がプレゼントを手にしてしまった……。

 恐怖と絶望で人類を支配する邪神に、サンタクロースはどんなプレゼントを贈ったというのか?


「冷たいのです」


「雪が詰まっているのです」


 夜の冷え込みで降った雪が靴下に詰まっていたのだ!

 靴下だけではない、河川敷も街も公園も、降り積もった雪で一面真っ白になっていたのだ!


「真っ白なのです」


「ゴミが無くなったのです」


「プレゼントなのです~」


 白一色に染め上げられた世界で、クトゥルーたちは侵略の成功を祝って走り回る。

 サンタクロースは、何と恐ろしいプレゼントを贈ってしまったのか、いや、サンタクロースこそ、邪神の尖兵であったのかもしれない!

 だが、邪神に染め上げられた人類にそれを確かめる術は無い……。


「ドロドロになったのです」


 昼には、積もった雪が全て溶けていた。

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