ふうたんのいいもの
ふうたんジョブズ
てっちゃんが、ふうたんのお昼寝中の寝言、
「ゴマちゃんジョブズ、しまむしジョブズ、てっちゃんジョブズ…。てっちゃんジョブズ!何かいいものちょうだい。」
と、てっちゃんの事をペットのネコたちの名前を並べた1番最後に出して、要求してきたお願いのお使いをする為に、近所のドラッグストアにやってきた。年末で、福引なんかやってたりして、店内は結構混んでいる。
―「ふうたんの“いいもの”の基準はアヤフヤでわかんないからなぁ。何を買って帰ればいいのかなぁ?」
てっちゃんジョブズは、店内のアイスクリームコーナーや、白髪染めのコーナーを見て周って見た。特に、“いいもの”は目に入らなかったので、無難に丸ごとバナナを購入する事にした。
てっちゃんジョブズがレジに並ぼうとすると、大関の紙パックを持った既にできあがってるおじいさんがいらっしゃって、おじいさんもレジに並ぼうとしていた。
てっちゃんが、スタタタタタと走って、レジ待ちの列に並ぼうとしたら、大関じいさんもスタタタタタと走ってレジの列に並んだ。
レジは3つある。2つしか可動してインあい。てっちゃんが、“おねえさん”と呼んであげる事にしている“おばさん”の店員さんが走って開いているレジに着こうとしながら、
「お次でお待ちのお客様、こちらへどうぞ。」
と、レジに並んでいる人を誘導した。
大関じいさんが、
「わしか?わしの番か?ひゃっはっは。」
と。レジの前に立つ。
「キャバクラじゃないから、指名料は払わないよ。」
大関じいさんは、レジのおねえさん店員に向かってそう言った。おねえさん店員は、相手にせず、スルーしていた。大関じいさんがレジを終えて、直ぐてっちゃんの順番が回ってきた。レジに丸ごとバナナ1つを指し出しお会計を済ませたてっちゃん。
店内を後にしようと、自動ドアの前に立ち、
びー
と開くのを待った。
自動ドアの向こう側には、子供が遊んで買うガチャガチャが置いてあるコーナーと、お買い得品が置かれたスペースがある。その奥に、もう1つ自動ドアがあって、外へ出れる。
手前の自動ドアが開き、向こう側の自動ドアの前に立った時、大関じいさんと見知らぬもう1人のじいさんがガチャガチャの前に置かれたベンチに並んで座っていて、大関の紙パックをラッパ飲みしながら、陽気に騒いでいた。
てっちゃんは、
―「ふうたんも、日本酒買ってあげたほうが喜びそうだな?でも、ふうたんが酔っ払うと面倒くさいから止めておこう。」
と、ドラッグストアを後にした。
帰宅すると、ふうたんはまだお昼寝中であった。何かまだブツクサ寝言を言っているけれど、起こさない様にした方がいい。てっちゃんは、薄暗くなってきた部屋に電気をつけずに、今日、お祭りでふうたんがやりたがって、仕方なくやらせてあげた、
“洗濯ばさみの詰め放題”
の洗濯ばさみが入った袋をダイニングテーブルの上に置き、その前に腰かけた。
てっちゃん、テレビもつけず、灯もつけず、静かにふうたんの詰め込んだ洗濯ばさみの数を数えた。
「てっちゃん、てっちゃんどこにいる?ふうたんオシッコ。立てない。足がない。引っ張って、引っ張って。」
いつもの様に、足とか手を寝てる間に紛失したふうたんが、てっちゃんを呼ぶ。てっちゃんは、今数を数えている途中だ。
「ふうたん、ちょっと待ってね。今ふうたんが幾つ洗濯ばさみを取ったか数えてる途中だから、数え終わるまで待ってね。」
ふうたん、寝ぼけ眼で、暗がりの中で細かい手作業をしながら、数を口で数えて唱えているてっちゃんの姿に気付く。ふうたんは、
「てっちゃん…。そんな暗い所で何してるの…?」
いつもでは有り得ない寝覚めの速さで、現状把握をして、怖がった。
「凄いよ!ふうたん、洗濯ばさみ76個もとったよ!」
ふうたんは、暗がりの中で、76個の洗濯ばさみの数を数えていたてっちゃんに、ドン引きした。
「てっちゃん、怖いよ。何で洗濯ばさみの数なんて数えたの?あかりくらいつけなよ。」
もっともらしいふうたんの意見に、てっちゃんは、大関じいさんの話を聞かせたのであった。そして、ふうたんは
「何しにドラッグストアに行ったの?」
と、てっちゃんに聞うた。
「え?ふうたんが。『てっちゃんジョブズいいものちょうだい』って言ったから、いいもの買いに行ったんだよ。」
てっちゃんジョブズって何…。ふうたんは自分の言った言葉に全く責任を持てない子だ。自分の言った覚えの無い、変なジョブズが、どんないいものを買ってきたのかてっちゃんに聞いた。
「丸ごとバナナ買ってきたよ。」
「あんまりいいものじゃないね。でもせっかくだから食べてあげる。」
「ふうたんは、優しいねぇ。いいもの買って来れなかったのに食べてくれるなんて、優しい子だねぇ。」
てっちゃんジョブズは、ふうたんジョブズがまき散らすふうたんウイルスにやられて、感覚がおかしくなっている。でも、その事に気付くのは、きっと死んだあとくらいになるであろう。
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