大きめのカブ

大きめのカブ

　どうもこんにちは。大きめのカブです。

　間違えないでほしいのですけれど、僕、大き「め」のカブなんです。「大きい」カブじゃないんです。あちらさんの方が同業者としては有名ですし、僕なんか位置付けが微妙ですしね。

　大きめってなんだよと。普通よりは大きいんだろうけど、じゃあどのくらい大きいんだ。その程度をはっきりさせろと。曖昧な姿勢は嫌いということで、過去にお付き合いさせていただいた女性にもフラれてしまいました。僕だって好きでこのサイズ感に収まっているわけではないんですけれど、そこを訴えるのも野暮というものです。

　いや、でも、「め」って何でしょう。ＭサイズとＬサイズの間とってみましたー、みたいな。カブに対しての「大きい」って、「太め」みたいな和らげるべきニュアンスを別に含んでいないでしょう？　英語で表現するにも困ります。大きなカブならbigだとかhugeだとかenormousだとか、添えるべき形容詞がすぐに思いつくんですけど、僕は明瞭に大きいわけではないので。a little biggerみたいな、持って回った叙述を余儀なくされるというか。下手に作文の時間を取らせてしまって、こちらが申し訳ない気持ちでいっぱいです。

　宇宙から暴力的に落下してきたんです、暴落してきたんです。

　そんなカブジョークをかませるほど僕にユーモアセンスがあるわけではないですし。どうせならただの「カブ」でよかったんです。下手にサイズ感を表す言葉を冠してしまったがばっかりに、こんな懊悩に苦しめられているんです。「大きいわけじゃないんだけど、目立つためにちょっとばかし小細工を弄させてもらいました」みたいな、いやらしい背伸び感が滲み出ていて嫌なんです。パロディ商品がパッケージに「モソドセレクション金賞」と書くような、パチモンの権威に縋っている感じがあります。

　ほら、あっちの大きなカブを見てください。一族総出で引っこ抜かれようとしています。大きめのカブとかいうどっちつかずの中途半端なものを引っこ抜いた成果より、大きいカブという分かりやすい尺度に乗ったものを引っこ抜いた方が成果が分かりやすいのは一目瞭然です（青果だけに）。だってあっちの方が明らかに大きいし。すごく大きい。僕は周囲のカブに比べれば大きいと言えるけれど、やはりあの大きいカブに比べれば路傍の石ころです。例えるなら、大きいカブは金メダルで、大きめのカブは青銅メダルです。順位が高いのは分かるけど、銅なの？　錫入っちゃってるけど、それ本当に銅って言っちゃっていいの？　みたいな。明白に世界トップスリーではなくて、補欠で表彰台に登ってる、的な。グレーゾーンに立たされて立つ瀬がないんです。埋まってる身で言うのもアレなんですけど。

　僕ももっと分かりやすい指標を伴って生まれたかったです。赤カブとか。小指の先ほどのミニチュアカブとか。変に育ちすぎてしまったせいで、変に途中で育つのをやめてしまったせいで、今のような状況に身を窶しています。

　おや？　大きなカブにかかりきりだった一族が、僕の方に向かって歩いてきました。

　あ、これはアレですね。大きなカブが抜けなかったから、仕方ないけど大きめのカブで我慢しようという。俗に言うところの妥協ですね。次善の策として持ち出されたようです。引っこ抜かれるんですけど。一回チャレンジしちゃったし、一族郎党呼び集めちゃったから、何かしらの成果がないとかっこがつかないと。示しがつかないと。そういう事でしょうね。

　どうも、潰しが利く大きめのカブです。沽券とか、株とかに強いこだわりは特にないんで、別にいいです。大人しく引っこ抜かれます。それなりの力を入れれば抜けると思います。思うに、あとちょっと力を入れれば頑張った感じになる仕事量より、絶妙に僅かだけ足りない力量で抜けてしまうと思います。ガッカリされると思います。そういうところでも、期待に沿えなくてすいません。

　井の中の蛙、もとい土の中のカブは大海に出ます。今までお付き合いくださりありがとうございました。今植わってるところ、この間更新料払ったばっかりなんですけど、もういいです。

　では。

　うわ、土の外って寒いんですね。すぐに煮るなり焼くなり、好きにされるのでいいんですけれど。

　……。

　どうしたんでしょう、人が集まってきました。携帯機器で写真を撮られているようです。あ、合点がいきました。どうやら僕は畸形のカブだったようです。ついさっきまで土の中で我が身を顧みることが物理的に叶わなかったので知りませんでした。そうですか、皆さん僕の形に興味はあるけどサイズに興味はないですよね。さっきまで一人でうじうじいじけていたことが恥ずかしくなりました。大海ではなくネットの海に出てしまったようです。僕は衆目の晒し者になった後、時代の土埃となって消えていきます。

　今度は、もっと白黒はっきりした大きさで生まれてきたいです。

　さようなら。