大変じゃのぅ。。。

紀之介

ご足労頂き、恐縮です

 子供の成長を感謝し、加護を祈る儀式である七五三。


 実は、そのお詣りで、神社に奉じられた感謝の言葉や加護の祈りは、全て出雲大社に集められます。


 大社の摂社である、上宮に祀られた八百萬神によって整理された後、祭神である大国主大神に、改めて奉じられるのです。


 …では、お寺にお詣りした場合には、どうなるのかと言うと。。。


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「これはこれは…ご苦労様です」


 七五三の担当神である漆伍参は、上宮入って来た仏教の護法神に声を掛けました。


「今年も、毘沙門天様が参られたのですね」


「そうじゃ」


「ご足労頂き、恐縮です」


「大事ない。」


 接待の間に案内された毘沙門天は、胡座をかいて床に座ります。


「あれは、準備してくれておるのか?」


「お神酒で御座いますね」


「…般若湯じゃ」


「これは失礼仕りました」


「で、あるのか?」


「御座います」


「おお!」


 破顔一笑する毘沙門天に、漆伍参は、申し訳なさそうに切り出しました。


「その前に…」


「おお、そうじゃったな!」


「無粋な事で、申し訳御座いません」


 毘沙門天が口の中で何かを呟くと、大量の巻物が出現します。


「これが今年、全国の寺へ七五三で詣ったもの達の、成長の感謝や加護の祈りじゃ」


「謹んで、お引き受け致します」


「神道側も、大変じゃのぅ」


「毎年の霜月の晦日、わざわざ引き継ぎにお出で下さる仏教の方には、大変感謝しております」


「七五三は、神事由来の行事じゃからのう。神道の方に預けるのが筋と言う物じゃて」


「忝ない事で」


「まあ、お互い様という事じゃ」


「…日本では、神社も寺も似た様なものだと思われております故」


 話が終わったのを見計らったかの様に、運ばれてきた酒。


 そわそわしだした毘沙門天に漆伍参が促します。


「どうぞ、お召し上がり下さい」


「では、遠慮なく頂こう。」


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「しかし、日ノ本中の七五三の感謝の言葉や加護の祈りを自らに奉じさせるとは…」


 呑んでいた盃を、毘沙門天は止めました。


「─ 流石、八百万の神を一同に集める 大国主大神殿じゃのぅ」


 ご相伴預かっていた漆伍参が苦笑します。


「全てを奉じる事は出来ないので…画竜点睛を欠くのですが」


「…そうなのか?」


「教会で行われた分は、ここには參りませんので」


 毘沙門天は、漆伍参の顔をまじまじと見ました。


「まさか…七五三を?」


「幼児祝福式と申すそうで」


「日ノ本の神事が、伴天連宗でも行われるのか…」


「子供の成長を感謝し、加護を祈る先が多いと言うのは…良き事なのでしょうが」


「─ まあ、そう言う事に、しておこうかのぅ。。。」

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大変じゃのぅ。。。 紀之介 @otnknsk

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