バケモノ(その2)
ーいじめは身近で起きてるものなんですよー
喫茶店に着くまでの道のりを歩きながら、昨日マスターが言っていた言葉を私は思い出していた。
私の周りでそう言う話はまったくしない。クラス内は男女共に仲が良いように見える。
でも、もし私の知らない所で、水面下で何か起こっていたら、私の友達に何かあったら、と考えるようになってしまった。
「マスターがあんなこと言うから心配というか…不安というか…」
私は小さくため息をついた。
いつもの歩道橋に着いた。ここまで来れば喫茶店まで後半分といったところだ。まぁ、それほど私の家から遠いわけじゃないけども....
向こうに渡る為に階段を登ると真ん中らへん、車が行き交う道路の真上に女の子が居た。歳は私より少し若く見えるが本当に年下かどうかは分からない。
なぜならウチのマスターは私と同じ歳くらいに見えて、実際は5歳以上の年上なのだから。見た目が若くても聞くまでは分からないと私はあのとき思った。
手すりに持たれかけて、道路を見ているのか遠くを見つめているのか分かないが彼女の周りの空気は重く思え、顔は酷く真っ青だった。
私は彼女の後ろを静かに通ろうとした時、彼女が橋の上に登った。そのまま重力に従うように彼女の身体は下に落ちようとしていた。
「ちょっ!?」
私はとっさに駆け出し、彼女の腰に抱きついた。そのまま彼女をこちらに引っ張り戻す。勢い余って後ろの壁にぶつかった。
「....いったぁ....」
私は頭をさわりながらどうなったのか辺りを見回した。
「ちょっと!急に何してるんですか」
私は彼女の両肩を持ち、彼女の顔を見た。
目に光は無く、身体は力が入ってないせいか軽い。心なしか少しやつれている。
彼女は小さく口を開きかけ、ボソボソと何か言っている。
「な....んで....」
「え?」
「なんで!邪魔するのよ!!」
彼女は眉間にしわをよせ、鋭い目付きで私を睨んだ。
「なんでって....」
私は彼女の気迫にビビり、言葉を上手く言えなかった。
「邪魔しないで!」
彼女は私の手をはらい、立ち上がった。
「待って!」
私はとっさに彼女の手を握った。がはらわれ、彼女はもう一度登ろうとしていた。
「ちょっ!?待って待って!」
私は急いで立ち上がり彼女を抱き止める。
「邪魔をしないで!!」
彼女は私を引き離して登ろうと必死になり、私は止めようと必死になった。はらわれては抱きつき、登ったら戻そうと繰り返し。もうそろそろさっきよりも多くの人たちが行き交う時間になっていた。私と彼女は両手を地面に着き、肩で息をしていた。
「ハァハァ、なんで死なせてくれないのよ」
「あたり…前じゃ、ないですか。ハァハァ」
「あんたに関係は無いじゃない」
彼女はまた鋭い目付きで私を見る。
「あーもう!」
私はだんだん怒りが芽生えてきて、彼女の腕を無理矢理掴んだ。
「ちょっと、なにするの....」
彼女は腕をほどこうとするが私の方が力は強かったので私は彼女を引っ張って行った。
私は勢いよく扉を開いた。
「朱音ちゃん。いつもより遅かったね。何か....」
マスターが私を見て笑顔で出迎えてくれる、はずだった。私の横に居る彼女を見るまでは。
「あったようですね」
マスターは何とも言えない顔をして言った。
「はい!マスター助けてください」
私は彼女を引っ張り、無理矢理喫茶店の中に連れ込んだ。
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