喫茶店(その2)


青年のマスターは扉を開け中へ入って行ってしまった。私は扉の前で立っている。青年のあの言葉が脳裏に浮かぶ。


「知りたいならどうぞ。この中へ」

 そう言って、青年は入って行った。


この店は『あなたの心を軽くします』とチラシや看板に書いてあった。そして、青年もその言葉を口にした。本当かどうか知りたいならこの扉の先に入るしかない。

私は少しでも軽く出来るならと青年を信じて、扉に手を掛ける。深く深呼吸をして、扉を開けた。


「よし....」

 私はそう言って扉の中に足を踏み入れた。


扉の中に入るとそこはどこか見たことがある教室だった。

ここは私の学校の教室で私のクラスだ。私は後ろを振り返ると扉は無くなり、後ろには教室の扉があった。どうして、喫茶店の中に教室があるの、それも私のクラスそっくりなんて、何かおかしい....と私は思った。それと同時に何かの悪寒を感じた。

教卓から机の数、ロッカーまで瓜二つだ。


「やっと来ましたか、遅かったですね」


私はビクッとして声の方を向いた。青年は机の上で何かを焚いている?煙が上がっていた。


「こっちへどうぞ」

 青年は煙が出てる机の前の椅子を引いた。


「そこ、私の今の場所何ですけど....」

 私は青年に近づきながら言った。

「えぇ、知ってます。だからこの椅子にどうぞと言ったのです」

 青年は座って言った。


私は言われるまま椅子に座り、青年に質問する。


「これでどうやって軽くしてくれるんですか」

「まずはあなたが何に悩んでるか聞かせて貰わないと」

 え、と思わず言ってしまった。青年は私の方を見て続けて言った。

「誰にも言えない悩みがあるのでしょう。身内や友達に言えないのなら僕が代わりに聞きますよ」

 

この人は何を言っているんだ。私にそんな、たいそうな悩みなんてあるわけないのに、家族に言えなくても友達になら何でも話してるから言えない秘密なんて....と考えてると一つ思い当たることを思いだした。

だって、これは私の勝手なことで、家族は関係ないし、話す意味もない。ましてや、友達に言うことでは、無い話だ。


「話したら少しは楽になりますよ?」

 青年は優しく笑顔で語りかけた。


私はそんな青年の優し笑顔を見て、文句もさっきまでのやりとりも忘れた。

青年は何も言わず笑顔で私が話すのを待っている。私はだんだん口が開いていくが、何をどう言えばいいのか、こんなこと言ってもいいのかと思うと喉で言葉が止まる。少しずつ鼓動も早くなって、何かが私を襲う感覚に陥った。


「一回呼吸を整えて、ゆっくりでもいいです」


青年の言葉通り、一回深呼吸をして呼吸を整えた。頭がしっかり回りだし、何となく心も軽くなった気分だった。

私は口を開き、青年に言う。それは本当に悩みと呼べるほどのモノではないけれど....

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