私の中の私へ A

私の中の私へ A


「君は何がしたいんだい?」

八畳一間の小さな部屋、太陽が地平線へと沈みそうな暮色騒然の時間に、【ぼく】は【僕】に問いかける。

「特に、何も。寝て、起きて、学校へ行って、ご飯を食べて、寝て、その繰り返し

だけで満足だよ」

ただひたすら、無気力そうに答える。

 

「まるで動物みたいだね。」

頭の中の声の主がつまらなそうに言った。

同じ【自分】という一つの生物なのに、まるで他人と話しているような感覚になる。


 「そんな毎日に一体何の価値があるんだ。そんなのはつまらないじゃないか。」

 

言われなくても、そんなこと本当は分かっているんだ。

変えなくてはいけない、変わらないといけない。

でも何をどう変えるのかが分からない、見えない。

やがて、考えるのも億劫になり、【僕】は考えるのをやめた。

どうやったって”過去“は変わらないし、”なくしたもの“は二度と戻ってはこない。

そうして、すでに【運命】は決まっているのだ、という結論を出した【僕】は

【生きる】ことに意味を見出さなくなった。


そして、数分が何時間も続くかに思えた長い沈黙の後、【ぼく】が突然言った。


「ねぇ、しばらく”交代“してみない?」

特に驚きはしなかった。

”表“に出たければ好きにすればいい。

 ただ…。

「君は何をするんだい?」

そう興味本位に問いかけてみた。


【ぼく】は答える。

「自分の足でどこまで行けるかを試してみたいんだ。」


この言葉の意味を【僕】が知るのは、もう少し後のことだ。

徐々に薄れていく意識の中でふと思った。


”何か変わってくれればいいのに“

 

日が完全に沈み、夜の帳が下りてくる頃、

【僕】の意識もちょうどそこで途絶える。


新月の夜のこと―――。


           私の中の私へ A

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水月 ~ A Beautiful World ~ 天音神子 @yakumo0124

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