第14話
自殺を選んだ理由は、特にない。ただ死にたかったから死ぬ。でもこんな理由は父親の世代には通用しないみたいで、甘ったれているとか恵まれているから自殺を選ぶって言われる。まあ、理解してもらうつもりなんかないけど。
茶の瓶に入った大量の睡眠薬を、瓶ごと持ち上げて口内に流れ込ませる。と同時に水も飲む。空になった瓶を食卓テーブルに置き、多少の気持ち悪さを感じながらも、薄暗いリビングのソファーに横たわる。吐き気がして、一瞬吐きそうになった。
今寝ている緑色のソファー、模様の入った淡い水色の絨毯、白い壁。これを見るのも最後になるのか、と思うと少しだけ悲しくなる。最近にしては厳し過ぎる父親に、気の弱い母親の姿を見ることもこれで最後だ。何故だかとても清々しい。
睡眠薬が効いてきたのか、少しだけ眠くなってきた。
これで家族の縛りからも、学校の縛りからも解放される。来世は鳩か、空にでも生まれてきたいな。贅沢を言うなら、家畜は嫌だな。人間はもううんざ……。
一回目死亡。
目を覚ますと、私は見覚えのある場所にいた。これは多分、私のベッドの上だろう。でも何故だかとても広く感じる。枕が地平線の彼方にあるようだ。
ベッドから降りようと下を見下ろすと、これからバンジージャンプでもするんじゃないかと思うくらいに高さがあり、脚が震えた。
唐突に目の前にハットを被ったヒヨコが出現し、手に持っているステッキで私の身体を指した。
「僕はカン。君には罰として縮んでもらった。ということでよろしく。じゃっ」
なにか急いでいたのだろうか、ポンッと白煙を残して一瞬で消えた。
私は縮んだからこんなにもベッドが広く高く感じられるのだろうか。あのヒヨコの言う通りだとしたら相当不便じゃないか。いわゆる小人になるなんて。
私は枕の元に走り、自分の身体よりも大きい白い塊を全力で床に落とす。それからタオルを身体に巻き、枕めがけて飛び降りる。まさにバンジージャンプ。
すとん、と無事枕に包まれたところで、まだまだ試練は残っている。
第一目標、完了。
第二目標、扉を開ける。
椅子の横に枕を移動し、枕から椅子へとよじ登る。その椅子の上にも枕を乗せ、フラフラになりながらやっと机の上に登れた。そこにあった筆箱から鉛筆二本、消しゴムを出し、消しゴムを下に十字架に並べる。片方に私が乗り、もう一本の鉛筆で一段上にある貯金箱を落とそうとする。貯金箱は貯金箱だが、プラスチック製で五円だけ入っている。そのお陰で割と早く落とせそうになり、落ちそうになった瞬間に鉛筆を放り投げた。貯金箱は幸運なことにもう片方の鉛筆の先に落下し、私の身体は見事に宙に舞った。それでも目的地はちゃんとある。ドアノブだ。少し勢いがありすぎたのか、私はノブよりもだいぶ上の扉に衝突し、ズルズルと落下してドアノブにたどり着いた。ぶら下がりながらドアノブを回し、少し開いたので床へ飛び降りた。尻餅をついたが外に出ることが出来たので、まあいいとする。
自分の有能さに浸り、よそ見をしていたのが悪かったのだろう。
足を踏み外して、階段から転げ落ちた。
二回目死亡。
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