第5話
タイヤの摩擦跡と無理な高音を響かせてシャッターをぶち破り、トキフネ自動車のライトゴールドの『ツタンカーメン』が、豪雨の外へ飛び出して行った。
社会現象を起こしていたG-DNAの" 神のあやまち "が、車内の空気を切り裂いていた。
「早く走れーっ、止まるなーっ、逃げろーっ」
二十歳の四人は、慌てふためいていた。
ビル街、ニュータウン、野原をひたすら走り続ける。
「何だったんだ。 あの光景は!?」
「狂ったように痛みが無いみたいに、抑制を外したみたいに大勢でナイフで刺しあってた!?」
「それに人間の溶けた姿干しの壁!?」
「止めろ、喋るなっ、忘れろっ・・・・・・」
四人共タバコを吸って各々の世界に・・・・・・。
煙が車内を舞う・・・・・・時間が経過する・・・・・・静かだった・・・・・・小さな声が囁いた。
「・・・・・・何処まで逃げるの・・・・・・そろそろゲームしようよっ」
「んっ・・・!?」 ギューギュギュギュッ、ギュー。
「どうしたっ」
「タイヤが空回りしている」
四人が車内で目を合わす。
パタパタッ、パタパタッ。 赤と緑の腐った腕が八本伸び、タイヤに手がピタリと付いていた。
車のフロントが三十度傾き、血の池に沈み始める。「お〜っ、おいっ!?」
「おぉ〜・・・!?」
「わぁ〜・・・!?」
「げげっ!?」
車内は、パニック状態に成った。
血が腰迄入ってきた。
バンッ、バンッガッシャガシャガシャ〜。
運転手の梶尾が喉元を噛まれ、振り回された、全てのガラスが粉々に割られる。
エアーバックが膨らむ、鳴りっぱなしのクラクション、そして残り三人も急襲された、指を喰い千切られる、腕、胸、胴、もも、足も同様に幾度となく噛み千切られた。
後部の燃料補給口が開く。
腐死人が蓋を開き、焚かれた発煙筒が直ぐに叩き込まれた。
ドカーン、爆発、炎上。 備品が周囲に飛び、散らかる。
トランクに座った腐死人が、タバコに火をつけ、最後に喋った。
「情報は、漏らしちゃ〜駄目よ。 タバコも吸い過ぎちゃ〜駄目よ。 フフフッ」
ウインクをしてタバコをふかし、血の池に燃えた車ごと沈んでいった。
前が見えない程の豪雨は、午後八時十五分を過ぎても止む気配を感じさせなかった。
中途半端な季節なので薄着気味の人は、身を縮めていた。
ニースリーデポンは、十二階建ての四つの建物から出来ていた。
中央にショッピングモール、それに対して左右・後ろに立体駐車場が並んでいた。
その駐車場とショッピングモールは、六階の三つの掛け橋と外壁の端・中央をつたうH型エレベーターで移動が出来るように成っていた。 工夫された最先端の建物である。
またショッピングモールは、吹き貫けも出来る仕組みで十二階は、下も見えるし、周りも一望でき、日本海最大のデザイン建築物として、ローカルニュースや全国ネットでも取り上げられていた。
健のパソコンが音もなく立ち上がる。
そしてパソコンの原型が無くなる程 悪魔が、外側から黒い顔や手を四方八方にもがき伸ばし、出て来た。
それは、苦しんでいるように見えていた。
灯りのついたディスクトップに"これから実行する"と書かれ、"了解 任せた"とチャーミンから返事が来た。 メールが送信される。
暗い事務所に精密なニースリーデポンの模型が有った。
ピンポイントライトが当たる。
ペタペタペタッ。 足跡を残し、姿が無い悪魔が近付き、臭い色のついた息を吹きかける。
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