3-5 ”俺様は強い・俺様ナンバーワン主義・俺様に逆らうものは死ぬ”

 次第に人が集まってくる。いつの間にかステージ裏では我が校の部活の代表でひしめき合っていた。サッカー部なら数人リフティングの練習を、演劇部は短編の劇の練習をするなど本番に備えていた。いるのは有名な部活だけではない。この学園には他にもディベート部や英語部などが存在し、その種類は多岐にわたる。



 そのせい、ということもあり、トリである僕ら学園治安部には大量の時間があったのだ。


 約二時間も待機するのはかなりハードだった。腰が砕け散りそう。


 白峰先輩と王華院さんと綾芽さんの三人は未だピシッと立っている。一体どういう体の構造をしていらっしゃるんだ。


 対する僕と師匠は立つのも疲れ、壁にもたれて小話をしていた。


「あー疲れたー」

「誰だよ昼休みに集合って言ったやつ。二時間部室でゲームできたじゃねーか」

「それ師匠です。あと一応授業中です。先生に聞かれたら怒られますよ?」

「あーそうだっけ……。大丈夫大丈夫ー。せんせーたちはこっちには来ねーよ」

「……ねえ師匠。なんだか眠くないですか」

「ああ、眠いな」

「ちょっと、寝ちゃいません?」

「おお。龍馬ちんにしては妙案だな。それじゃ寝るか」

「はい。おやすみなさい……」


 そして、僕と師匠は電灯が照らす白壁に寄り添い、眠りに……。


「寝ちゃだめですよ!」

「「どわっ!」」


 床の寂しい色をしたタイルを見ていたのに、その中に美少女が入ってきたらそりゃびっくりですわ。


「綾芽さん……」

「龍馬ちんのせいで寝るところだったわ、あー危ねえ……」


 目をこすり、垂れ流していたよだれを袖で拭く師匠。そして「ふあぁ」と大あくびを一回。


 鈴蘭先輩が腕章をした生徒会役員に「そろそろ準備お願いします」と急かされていた。


「杏、もうすぐですよ」


 生徒会のあいさつで開幕した部活動紹介も終盤に差し掛かっていたようだ。そう言えば他の部活は今ステージで発表している子たちしかいない。部活動紹介が終わり次第帰ってもいいルールなのだろう。


 結局王華院さんにはため口を使わずに済んでしまった。一応の保険だったけれど、ただ何もせずに写真が流通していくなんて……なんか気にくわない。


「はいはーい。んじゃ龍馬ちんも行くぞ」

「……はい」


 覇王の僕と東皇四天の彼女たちは生徒会の役員さんに誘導されて舞台袖へと移動する。やはり生徒会の皆さんには僕という存在は嫌われているようで、物凄く嫌な顔をされてしまった。まあ、あれだけ事件(架空)をおこしているのだから、当然と言えば当然かもしれないけど。


 誘導を終えた生徒会の役員さんはそそくさとその場所から逃げてしまった。


「まず最初に東皇四天だけで出る。でオレが代表として話す。話し終えたら『次は覇王を紹介します』みたいなことを言うから、龍馬ちんはそれでオレらと入れ替えで演説する。原稿ちゃんと考えてきたか?」


「はい。言われた通り威張り散らす感じで書いてきました。内容は完全には覚えていないですが……」


 とりあえず『俺様は強い・俺様ナンバーワン主義・俺様に逆らうものは死ぬ』ってことが言えればいい。見せつければいいのだ。怖がらせればいいのだ。震え上がらせればいいのだ! ……難易度高いってぇー。


『次は――学園治安部の発表です』


 体育館内に放送が響き渡った。


「それじゃあ行ってくるわー」


 師匠を含め、東皇四天はステージへと出ていった。


 観客席の方からはまるでアイドルみたいに歓声が上がる。ああ、僕がステージに立った時のリアクションが目に見えるよ。


『こんにちは! ワタシたちは学園治安部の東皇四天です――』


 うわ! 師匠が自分のこと『ワタシ』って言った! 外見からしたらそっちの方が普通だけど、ここが公の場だと考えた結果なのかもしれない。



 詳細は省くけれど演説はなかなかのものだった。身に染みる何かがあった。いつも師匠はやんちゃなことをしているイメージしかなかったが……さすが二学年首席だなー、と僕は感服。『ワタシモード』の師匠もどこかかっこよかった。


『次は我が部、そして学園の覇王の紹介です!』


 師匠がそう言うと、東皇四天さんは僕のいる舞台袖へと帰ってきた。それと同時に館内を行きかう騒めき。その中からは文句や怒号がとんでいる。


 音切君の告白の時の情報がこの昼休みの間に学園中を走り回ったのだろう。SNSで炎上する人の気持ちが少しわかるような気がした。


「龍馬ちんって満遍なく嫌われてるなー」

「声は低く、だよ龍馬君!」

「応援していますよ一堂君」

「……」


 師匠はやっぱり僕をからかう。


 綾芽さんと鈴蘭先輩もやっぱり応援してくれる。


 王華院さんはあの時のことを根に持っているのか、単なる男嫌いなのか知らないけどやっぱり何も言ってくれない。


 そんな東皇四天全員が『いつも通り』な顔をして、僕を安堵させる。


「はい! 頑張ります!」


 僕も同様『いつも通り』の口調で舞台袖から右足を踏み出した。表情や歩き方はすでに『俺モード』。


 マイクスタンドまでたどり着くと、体育館の景色が全て目に入る。さすが私立、体育館はかなり広い。やばいよ緊張しちゃうじゃないか。


 僕はマイクを持ち上げる。


 ステージ側しか電気がついていないため、こっちからは前にいる一年生の顔はよく見えない。そしてそれをいいことに、向こう側からは非難、罵声の数々が聞こえた。


 一対一では何も言えないくせに、人間心理というのは本当に単純だ。


 一人で来ればいいのに……どうせ何も言えないのだろうけど。まあそのかわり僕もビビって何も言えないけどね。……この学園にいい子ちゃんたちがそろっていてよかった!


「帰れー!」

「そうだそうだー!」


「あ」


 僕は「俺のスピーチを始めるから聞いてくださ……聞け」の合図の代わりにマイクに向かって声を出した。あと音声調整がしたかったのもある。


「……」


 群衆は時を止められたみたいに静かになってしまった。「黙らねえとぶっ殺すぞ」みたいな解釈をされたのか、もう誰も何も言わなかった。僕ってば今『俺TUEEEE』状態じゃない?



 まあいい。このまま知らしめてやる。僕の絶対的権力ってやつをね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る