九日目③

 午前六時十五分。

 サクヤを乗せた飛行機が関西国際空港に着陸した。

 いつも必ず、ではないが、サクヤはもの悲しさに襲われる。肉体の移動に時間はかからないが魂の移動には時間がかかる、といったのは誰だったか。

 飛行機の窓から見える空港は、朝日を浴びることなく、重く暗い空に覆われていた。

 飛行機を降りるとき、サクヤは身震いする。


「へくしっ」


 不意に出たくしゃみだったが、誰からも「Bless you」と声をかけられなかった。

 機内で、気温六度とアナウンスされていたのを思い出す。

 どうりで寒いわけだと納得する。

 香港を出るときは二十度ちかく気温があったのだから。

 鼻をすすり、吐いた息が白っぽい。


「休暇が一番必要なのは、たったいま休暇から戻った人なんだよね」


 ぼやくと旅行の日々が甦り、不意に憶えた寂しさにサクヤはコートに袖を通す。

 ただいま帰国したよ、と三人にメールを打ちながら、入国手続きへと向かった。



                                 [了]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る