六日目④

 降り出した雨の中、キャセイパシフィック航空の飛行機が飛び立った。

 定刻より二十分ほど遅れていた。

 つぎなる目的地は、香港。サクヤは胸の高鳴りを押さえられずにいた。

 なぜ惹かれ、心躍るのか。込み上げるものの正体を知りたくて幾度となく訪れた彼女だったが、のめり込むあまり今年も訪問してしまう。


「トモ、香港のいいところってなんだと思う?」


 サクヤは隣席のトモに訊ねた。


「どこでも飲茶や点心が食べられることじゃないの?」

「んー、やっぱりそこかな」


 賛否両論わかれるが良いところとして、食べ物がおいしく夜景がきれい、英語が通じやすく交通機関が発達しているなどがあげられる。悪いところとして、道が汚く場所によっては変な臭いがし、スリやボッタクリがあるなどだ。

 とはいえ、である。

 空の旅で楽しみなのが、やはり機内食。中華と洋食から、サクヤは行きの飛行機同様、中華を選んだ。


「中華以外の選択肢なんてありえないっ」


 行きの機内食はまずまずの味だっただけに、期待が高まっていた。

 運ばれた食事を前にし、まずは儀式のごとく撮影する。

 ポークヌードルと焼豚、ロールパンにはバターが添えられている。スイカやパイナップルなどをカットしたフレッシュフルーツ、ボトルウォーターとヨーグルトがついていた。

 焼豚が入っていて美味しかったが、ここでの食べ過ぎは禁物。サクヤは自制し、ロールパンを残して手を合わせる。


「ごちそうさまでした」

「あらあら、サクヤが残すなんて」


 隣席のトモが不安げな顔をする。


「気分が悪い? それともダイエット?」

「ちがうよ。香港に備えてるだけだから」


 サクヤは、お腹を擦りながら目を閉じた。

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