四日目③

 十一時と十二時、サクヤとトモは連続で予約を入れていた。

 二人して二つにカウントされる九十五分コース、ナチュラリリビングアロマ&ハートメイドポリッシュと呼ばれる二種類のトリートメントを組み合わせたコースを選んだ。

 同じコースだからなのか、ベッドを並べた同じ個室でトリートメントを受ける。

 七つのナチュラルリビングブレンドから選んだオイルを使用するアロマセラピートリートメントと、日毎に異なる季節の素材を使用したハンドメイドのポリッシュを使い全身を磨かれるコース。オイルマッサージは下手だと嫌だな、と心配するサクヤだったが、担当した人の施術は上手く、気持ちよかった。

 オイルとアロマに包まれて途中からぐっすり寝てしまい、頭の中までゆるゆるになって開放感が半端ない。全身に塗布されてから、部屋の片隅にあるシャワーブースで流すとサクヤはびっくりした。信じられないほど、肌がすべすべになっていた。

 二人と入れ違うようにキョウとカコは、スパ・トリートメントを受けに来た。

 十二時と十五時の予約らしく、彼女たちとは完全に別行動となる。


「そういえばカコは今日、ホイアン行くって言ってなかった?」


 部屋に戻ったサクヤはトモに訊いてみる。


「予約が十二時と十五時になって、時間が取れなかったんだって。予約は日本語じゃだめだから」

「夕方にホイアンへ行こうと思えば……夜になるし一人じゃ危ないか。それにカコは海外旅行初心者みたいなものだし」


 もったいない。時間とお金をかけて来ているのになんとかして行く方法はないだろうか。すでにサクヤは、キョウとともにホイアンを観光している。遺跡巡りまでしてきたのだからキョウは行かないだろう。だとすると……。

 サクヤの視線はトモへ向けられる。


「トモは、ホイアンへは行かないの?」

「今回はいいかな。ゆっくり心と体を休ませたいから」


 今回のトモの旅行目的は『癒やし』のようだ。仕事のストレスが溜まっているのだろう。

 サクヤはベッドに横になり、天井を仰いだ。


「日本人のスタッフがいたらなんとかなったかな。調べたときはいたと思ったんだけど」

「うちらが来る前までは一人いたんだって。フュージョンマイア系列のリゾートがフーコック島にできるらしくて、異動したみたい」

「まじか。いつのまにそんな情報を」

「施術終わったあと、スタッフさんから」

トモの話を聞いて、ふうっと息を吐いた。

「そうなんや……残念」


 もし対応できるスタッフがいたのなら、違った結果になったかもしれない。

 人生に、もしもはない。後悔しないためには知識や情報、行動やタイミングを不足しないよう、日々の努力を積み重ねていくしかない。

 カコの場合、コミュニケーションできる英語力を身につけること。

 自分も偉そうなことはいえないなあ、と内省するサクヤだった。

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