三日目⑮
フュージョンマイアには、バーと二つのレストランが有る。
一つは、インフィニティ―プールの傍にあるフレッシュプールサイドダイニング。店内を爽やかな色合いで統一されたレストランは、テラス席からは海ものぞむことができ、地中海のリゾートにいるような雰囲気の中で食事を楽しめる。
もう一つがメインレストランのファイブダイニングルーム。レセプションホールの奥に隣接されている、百五十席あるメインレストランだ。近代的で明るく、高い天井にはホイアン名物のランタンが飾られ、料理の様子もみられるオープンキッチンでは、ダナンで獲れた新鮮な魚介を使ったベトナム料理をはじめ、アジア各国の料理も用意されている。
そんなファイブダイニングルームのテラスでサクヤとトモは、ベトナム料理のBBQビュッフェディナーを食べている。
「エビがうまいな」
「どこに行っても、サクヤのエビ好きは健在だね」
笑いながらトモはカオラウの米麺を食べる。
「ところでサクヤ、気になってるんだけど聞いてくれる?」
「あらたまって、どうしたの?」
大したことじゃないんだけど、と前振りをするトモは少し身を乗り出す。
「テラス席で女二人して食べてると、カップルと間違われるんやないかなって」
「んー」
お酒も飲んでいるからか、トモの顔に赤みがさしている。
周囲の目を気にしすぎる彼女にとって、気になるのも無理からぬ事かもしれない。
「友達同士で食事してるだけなんだからさ、欧米なら手を繋いで歩いてたら変に思われるだろうけど」
「インドは男同士が手を繋いで歩いても仲がいいだけで深い意味もないんだよね。サクヤの言いたいことはわかるんだけど」
LGBT(性的少数者)に対する世の偏見や差別は絶えないが、世界中では珍しくなくなってきている。ベトナムでは二〇一五年、ベトナムが婚姻家族法を改訂し同国での同性婚禁止を撤廃している。同性同士の式を上げても当局がやめさせたり罰金を取ったりしない。結婚登録はできないけれど、戸籍にカップルとしての登録ができるので、子供や資産などの関係が認められ、関連する義務や権利を行使できる。つまり、寛容さは持ち合わせている。
だからといって、二人は友達であってそういう関係ではない。
そもそもサクヤたち四人は、高校に通っていた当時、ほとんど話をしたことがなかった。後に卒業して行われた同窓会で出会い、突然話しかけたとき、互いに旅行が趣味と知ってから親しくなっていったのだ
仲が良かったわけでもないのに、ほんの偶然で、いまは親しくなっている。
おかしなものだとサクヤは小さく笑う。
「気にし過ぎだって」
モヒートを飲みながら、まるごと入ったミントとライムの爽やかなカクテルを味わった。これまで飲んできたモヒートより、香りが断然際立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます