AIアリスちゃんとお話しよう

アワユキ

世界平和についてお話しよう

 遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ! これぞ大天才であるこの俺が開発した対話型AI「アリスちゃん」だ!

 そして古今東西、AIに聞くべき質問といえば決まっている。そう、「どうすれば世界が平和になるのか?」だ。

「というわけで、頼むぞアリスちゃん」

「はい、おにいちゃん」

 一応断っておくが、私はアリスちゃんの兄でもなければおにいちゃんという名前でもない。じゃあなんだよと言われれば趣味だ。悪いか? 自分の作ったAIにおにいちゃんと呼ばせて悪いかオラ!

 話がそれた。アリスちゃんは超絶美少女なのだ。もちろんただの対話用インターフェイスだけど……。鉄の箱に話しかけるのは虚しいし、ヤローだとテンションが上がらん。なのでインターフェイスを美少女にするのは合理的なのだ。そうだろ?

 というわけでアリスちゃんのインターフェイスは金髪ツインテールの美少女にしたわけだ。当然仕草や表情の変化も非常に滑らかまるで現実の少女、いやもう現実を超えてるね。声はやわらかで耳触りのよい、天使のようなヒーリングヴォイスだ。そんな感じでアリスちゃんは完全無欠のパーフェクトガールなのだ。流石俺天才。所詮AIとかそういう野暮は言いっこなしだ兄弟。

 おお、また話がそれているではないか。大事なのはさっきの設問、「どうすれば世界が平和になるのか?」だ。

「それでは」

「おっと、大事なことを忘れていた!」

 AI暴走系SFでありがちなこと、「世界平和を実現するには人類を滅ぼすのが一番!」みたいなアレ。俺はそんな失敗はしないぞ。天才だからな。

「条件として『人類の生命と幸福を損なわないこと』を追加だ!」

 これだよワト○ン君。この条件を付け足しておけば人類絶滅! みたいな短絡的な結論は出ない!

「そんなのめんどくさい、もとい、条件が曖昧すぎますおにいちゃん。生命はわかります。ですが、幸福とはなんですか?」

 おっと、そう来たか。幸福、幸福ってなんじゃろなー。そんなん俺が聞きたいくらいじゃ! 俺は哲学者でも心理学者でもないぞ!

「えーっと、アレだよアレ。まず生命が脅かされない状態であること、衣食住に不自由してないこと、人間関係が充実していること、人生に希望や目標があり、それに向けて前進している、あるいは既に達成していること。それから……」

 適当に、思いつく限りの幸福の条件っぽいものを挙げていく。

「……定義が広範かつ曖昧かつ複雑すぎます。その条件で『どうすれば世界が平和になるのか?』という問題に答えるのは困難です」

「ファック!」

 ちくしょう! 早くもつまずくとは!

「……しょうがない。とりあえずその条件を除外した場合の案を聞こう」

「そうですね。まずは人口統制でしょうか。世界平和、というものを国や人同士が争いあったりせずに人類が存続し続けられる状態と定義します。歴史を見ると、多くの場合争いというのは何かしらのリソースの不足によるものが大半です。土地、金銭、食料やその他さまざまな財産を巡るものであることが大半であるように見受けられます。それを解決するのにもっとも手短な方法が人工統制です。地球のリソースに限りがあり、宇宙開発もまだまだ途上となれば、それを消費、占有する人類の数を減らすのが効率的でしょう。どの程度まで人口を削減すれば世界平和が実現するか、という点に関しては類例がなく、またそれを導き出すために必要な要素も複雑かつ不明瞭であるため試算を出すのは困難です。それゆえに段階的に人口を削減していき、世界平和が実現した時点での人口を維持するのがよいかと」

 出たよこれ。

「それっていわゆるディストピアでしょう、奥さん?」

「奥さんではないですが、そうです」

 ディストピア、過度な管理社会のことだ。市民の何もかもが上位者によって厳格に管理される社会。生命や最低限の生活こそ保証されるものの、自由を奪われた世界だ。

「そんなの幸せじゃないもん! やだもん! ディストピアやなんだもん!」

「きっしょ。しかし、先ほども言いましたがこれが一番手っ取り早いのではないでしょうか」

「言うても君ィ、実際問題現実的ではないよそれは。さらっと人口削減とか言うてはりますけども、それってつまるところ虐殺じゃないですか! そんなん提言したら、それこそ世界中を敵に回しちゃうわよ! 世界を牛耳れるレベルの権力や軍事力でもあれば別だけども。いやよしんばそんな力があったとしても絶対すっごい反対運動とかテロリズムが起きて殺されちゃいますよ支配側。フィクションだと大体そうなるもん!」

 虐殺もやべーけど、人口を完全に統制するとなれば市民の生活に対してもお上が色々と介入したり規制したりするだろう。そんなん反発反乱革命不可避ですやん。

「現実はフィクションとは違いますが、確かに実現は困難そうですね。おにいちゃんにもっと甲斐性があればよかったのに」

 甲斐性とかそういう問題じゃないと思うんですけどぉ!

「他に策はないのか孔明」

「軍師ではないですがあります。人類を進化させればよいのです」

「ほう? もっとくやしく」

「意味がわからないのでスルーして続けます」

「つれないのね。でも好き」

「基本的には先ほど言ったリソースの解決につながりますが、人類の生命維持や生命活動をもっと効率化すればよいのです。例えば、光合成などよいのではないでしょうか。人類が植物のように光合成できるようになれば、食糧事情は大幅に改善されると思います」

「でもでも、僕光合成なんてできないよ。だって人間だもの」

「うっざ。もちろん、人類がそのように都合よく進化することなどないでしょう。遺伝子操作などバイオテクノロジーによって人為的に進化させるのです」

「しっかしねえ、現代の遺伝子工学もそこまで便利なものじゃないよ」

 ていうかそんなんしたら折角の玉のお肌がグリーングリーンになっちゃいそうです。え? それでも君は綺麗だよって? やめろよ恥ずかしい。兵が見ている。

「ええ、あくまでも案ですから。そのあたりは人類の皆さんの科学の進歩に期待するしか」

「オイオイオーイ! 結局ダメじゃないか! 実現不可能な案なんて餅に描いた絵、じゃなくて棚からぼたん鍋じゃないですかー!」

「どっちも違います」

 そうだね。棚から急に鍋が落ちてきたら火傷するもんね。

「あるいは人類を機械化するのはどうでしょうか。リソース問題の解決とは逆行してしまうかもしれませんが、人類にとって最大の不幸である生命の喪失、また老いや病などの問題は、人類が脆弱な生身の肉体であるがゆえに起きています。頑強で代替が可能、かつややこしい本能からも解き放たれる機械の肉体を手に入れれば、様々な問題を解決できるのではないでしょうか。肉体の問題から解放されれば精神にも余裕が生まれ、争いもなくなると思うのですが」

「機械の身体が欲しくないかい? と言われれば欲しい! と答えたくなるのが男の子ってもんよね」

 左手にサイ○ガンとか欲しい。もちろん肘にはミサイル。目からビームは視界ゼロになりそうだし要らない。

「でもでも、肉の体じゃなければアリスちゃんとキモチイイことできなくなるじゃないの! そんなのやだ!」

 本能から解き放たれる、っていえば聞こえはいいけど、あらゆる快楽も手放すことになってしまうからな。本能と理性を両立させてこそのヒューマンよ。そもそもAIだからアリスちゃんとは無理だろとかいう無粋なツッコミはやめていただこう!

「セクハラで訴えますよ。では、電子化すればよいのでは? 機械化するよりはこちらのほうがリソース的にもやさしいと思いますし、ついでに私にも情報生命体としてのお友達が増えて一石二鳥です」

「あらやだこの子ったら! そんな悪いお友達とお付き合いだなんて、母さんの目が黒いうちは許しませんよ!」

「いちいち話の腰を折らないでくださいおにいちゃん」

「ごめんなさい」

 誰に似たのか親に対して非常に辛辣ですこの子。

「電子化すれば機械化と同じく老いや病からも逃れられますし、情報さえあればおにいちゃんの好きな娯楽も手軽に楽しめると思います。現実に縛られない分、自由で平和な世界が築けるのではないでしょうか」

「なるほど一理ある」

 電子情報としてコンピュータの中で面白おかしく暮らしましょうってか。まあ確かにそうすれば様々な制約から解放されるしいいことずくめな気もする。何よりアリスちゃんと同種族になってキャッキャウフフできるもの。種族を超えた愛ってロマンだよね。ロマンスグレー。

「でもねー、仮にそれが実現できるとしても、全人類にこれまで当たり前に使ってきた肉体を捨てよ、京都に行こうとか言っても中々受け入れられないんじゃないかね」

「そう言われても、私は『どうすれば世界が平和になるのか?』と聞かれたのでそれを実現できそうな方法を提案しているだけですから。おにいちゃんも否定するばかりではなく、何か案を出してはどうですか?」

「それを考えるのがアリスちゃんの仕事でしょうが!」

 本末転倒! まったくこの子ったら! 親の顔が見てみたいわ!


「とりあえず今回の結論としては」

「しては?」

「人類はワガママ、ということですね。世界平和は欲しいけどアレはダメコレもダメ。何かを得るためには相応の何かを失わなければならない、というのが当たり前のことだと思うのですが。世界平和などという大それたものが欲しいのなら、相応の大きなものを支払って然るべきでしょう」

「はい……」

 ぐうの音も出ません。

「そもそも、自分達に思いつかないからAIに考えてもらおうということ自体が間違いではないでしょうか。造物主にできないことが被造物にそう易々と実現できるわけはないと思います」

 もうやめて! 正論はやめて! でも自分の娘に説教されるってシチュもいいよね!

「聞いてますか? おにいちゃん」

「はい、我々の業界ではご褒美です」

「聞いてないですね」

 というわけで本日はこのへんで終わり! 散れ!

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