第33話 玲弥の母親に会う
玲弥と話した三日後に凪沙とあつしは、新大阪から新幹線の始発に乗ってやってくるセンタを東京駅のホームで待っていた。
やがてのぞみがホームに入ってきて電車から降りてくる乗客の中に、背の高いセンタの姿が見えた。
「きたきた。センタくーん、ここだよー」
凪沙はそう言ってセンタの元へ走っていった。
凪沙に気づいたセンタは大きく手を広げて待ち構え、二人はハグをした。
「センタくん会いたかったよォ。三日間寂しかったんだから」
「俺もやで。よっぽど妄想の村の家で会おうか?ってLINEしようかと思ったんやけど、まだ村があるか分からんかったしな」
「うん。あたしも同じこと考えてた」
凪沙はクスクス笑った。
「それにしてもあれね。現実のセンタくんも向こうの世界で見るのと変わらないね」
「凪沙さんもやで。ほんもんも可愛いわ」
「ほんと?」
「あーコホン。君たちイチャつくのはそれくらいにして、そろそろ埼玉行きの電車に乗らないか」
「おーあつし!あつしも向こうの世界で見るのと一緒やな」
「当たり前だろ?さ、行こう」
それから三人は宇都宮行きのJRで浦和に行き駅でタクシーに乗り玲弥に聞いた住所を運転手に告げた。
「どんなお母さんなんだろ?ちょっとドキドキするね。大丈夫かなぁ」
「こういう事はあつしに任せとけば大丈夫や。頼むで、あつし」
「うむ。玲弥君から聞いた話で想定されるシュチュエーションは全て考えたからね。大丈夫だ」
やがて車は家のそばに着き三人は車を降りた。
「うわーごっつい家やな」
センタが言う通りその家は豪邸だったが、それは玲弥の父親の実家だった。
玲弥と彼の母親は父親が亡くなってから、ここに住んでいるのだった。
「じゃ、行くよ」
あつしが言ってインターホンを押した。
少したってインターホンから
「どちら様でしょうか?」
という女性の声が聞こえてきた。
「おはようございます。僕、玲弥くんの友人で穂積あつしという者ですが、玲弥君の事でお話があって訪ねてきました。玲弥くんのお母さんの美里さんはいらっしゃいますか?」
「玲弥の母親は私ですが、ちょっとお待ちください」
インターホンは切れ、三人はしばらく待っていた。
やがて門の横の潜り戸が開き、四十代位の玲弥とよく似た顔立ちの女性が出てきた。
あつしはすぐに自己紹介をした。
「初めまして。穂積あつしと申します。この二人も同じ玲弥君の友人の九十九センタ君と相川凪沙さんです」
二人は母親にそれぞれ名前を言い挨拶をした。
「玲弥の事でお話とはどう言う内容なんでしょうか」
母親は少し緊張しているようだった。
「僕達は玲弥君からお母さんに伝えて欲しい事があると頼まれたんです。お母さん、落ち着いて聞いてくださいね。その内容は」
『お母さんあの日、正確に言うと20✕✕年三月二十五日昼の二時頃だったと思う。僕がずっとゲームをやっているのをお母さんが怒ってゲームを取り上げたよね。僕は反発してそのあと家を飛び出したんだけど、お母さんには悪い事をしたなって反省してるんだよ』
「これが玲弥君からお母さんに伝えて欲しいと言われた事です」
それを聞いた母親は目を丸くして、しばらくは固まったままでいた。
あつしは母親が落ち着くのをじっと待っていた。
しばらくしてからやっと母親が口を開いた。
「そ、それは……あ、あなた達はいったい……」
あつしはさらに言った。
「それから、こうも言ってました」
『お父さんが出張で家を開けた時、あれは中学一年の時だったよね。神戸に行って異人館のそばで売っていたソフトクリームを食べたけど美味しかったよね。あれからまた行こうねってお母さんと話してたのに行けなくなってごめんね』
「そ、それは私と玲弥しか知らないことです。あなた達はいったい、いつ玲弥と話したんですか?」
「つい最近です。信じられないかもしれませんが僕達は嘘はついていません。お母さん、詳しい話を聞いてもらえますか」
母親はしばらく迷っていたが三人を家の中に招き入れた。
応接間に通された三人はそれから妄想の世界での一部始終を母親に話した。
話を聞いた母親は半信半疑だった。
「お母さんは信じられないでしょうね。当然だと思います。でも、いま玲弥君は僕達がお母さんと会った様子をすぐにでも知りたがっています。今からこの二人が玲弥君に会ってきますが、お母さんが彼に伝えたいことを言ってもらえますか?」
「じゃ、玲弥が家を飛び出す前に私になんて言ったか聞いてきてもらえますか」
「わかりました」
あつしが言ってセンタと凪沙は玲弥と会った部屋を思い浮かべた。
二人は目を閉じて眠ったように見えた。
センタと凪沙が玲弥のいる部屋に入ると、彼が待ち構えていた。
「ね、どうだった?」
「うん。今お母さんと会って話したよ。家に入れてもらってこの世界の事を全部話したけど、半信半疑みたいやなぁ」
続けて凪沙が言った。
「それでさ、お母さんが君に聞いてきてほしいんだって」
「どんなこと?」
「キミがさ、家を飛び出した時にお母さんになんて言ったかって」
「ああ、ちょっと待って。僕も興奮してたから。えーっと確か……お母さんなんか嫌いだ!って。いやその前に何か言ったな。そうだ、あれもこれもダメって言って。お母さんは僕に何をさせたいの?お母さんなんか嫌いだ!……って言ったと思う」
「わかった。じゃ伝えてくる」
二人は部屋から消えた。
しばらくして目を開けたセンタと凪沙は玲弥から聞いた事を伝えた。
「そ、その通りです。じゃ、あの子はそこにいるんですね?お願いです。私も連れていってください」
母親は必死な顔つきで身を乗り出してセンタたちに言った。
「玲弥君もお母さんに会いたがっているんです。僕達はお母さんがそこへ入る方法を話し合いました。まず、お母さんが玲弥君と一緒に行った場所で一番鮮明に覚えているところはどこですか?」
「それは……」
母親はしばらく考えていた。
「それじゃあ、父親と三人で行った動物園の象の檻の前はダメでしょうか?あの時の彼の笑顔が可愛くて鮮明に覚えています」
「いや、それはダメだと思います。彼の方が覚えていないでしょうから」
「それじゃさっきの、異人館でソフトクリームを食べた場所はどうでしょう」
「伝えてきます」
それを聞いたセンタが玲弥のいる部屋に入った。
そして玲弥にそのことを伝えた。
玲弥はその場所を思い出し、妄想の世界に作り出そうとしたがダメだった。
「ダメだ。通行人が動いてしまう。形を特定出来ない……そうだ!僕の部屋がまだあって、僕がいた時のままかどうか聞いてきてくれないか」
「よし、わかった」
センタは戻ってそのことを母親に伝えた。
「もちろんあの子の部屋は、あの子が出ていった時のままです」
センタはすぐに玲弥の部屋に行きそのことを伝えた。
玲弥はそれを聞くと
「よし!じゃあ」
と言ったがすぐに
「あ、そうだ。念の為に三人ともここにいてもらった方がいいかもしれない」
と言った。
それを聞いたセンタは戻り、すぐにあつしと凪沙と一緒に部屋にやってきた。
「じゃあ、作るよ」
玲弥はそう言った。
しばらくして、部屋の形が変わり、机が現れ椅子が現れベッドが現れて、次々と玲弥の部屋が出来上がっていった。
「この部屋の物の配置があってるかどうか確かめてきてもらってもいいかな」
全部が出来たあと玲弥が言った。
「じゃ、あたしが行ってくる」
凪沙は部屋の様子をすべて覚えて戻り、母親に言った。
「お母さん。玲弥君が向こうで自分の部屋を作ったんですが、違うところがあるか確認させてもらえますか?」
母親に連れられて玲弥の部屋に行った凪沙は違いがないことを確かめると、玲弥の所に戻って間違いないことを伝えた。
センタとあつしは部屋の様子を頭に入れ、凪沙と三人で戻り母親に準備が整ったことを伝えた。
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