第28話 後戻り

 翌朝、センタたちはエルフらと共に遺跡の入口にやってきた。


 遺跡の入口は広く高く、入口からそのまま奥の突き当りまで見通せた。


「よしっ!いくか」


 センタが言って一行が足を踏み出しかけた時


「待った!」


 とあつしが止めた。


「途中に罠があるかもしれない。突き当りまで一気に飛ぼう」


 皆はなるほどと思い、それぞれが手を繋いで奥の突き当りへ飛ぶとすぐに身構えた。


 が、様子がおかしい。確かに奥に飛んだはずなのに入り口にいる。


 センタたちはもう一度、三人だけで突き当りに飛んでみたが、やはり入口に戻っていた。


 そして今度は、あつしが歩いて入ってみようとしたが結果は同じ事だった。


 どういうことだ?皆は考え込んでしまった。


 しばらくしてあつしが


「センタ、昨日の奴は何か落とさなかったかい?」


 と聞いた。


「昨日の奴?さぁ……あ、いや見てへんわ」


「それかも知れない。僕も迂闊だったよ、確認しなかった。戻ってみよう」


 センタたち一行は昨日の魔物の所へ戻ってきてみると、倒したはずのふわふわした魔物がいる。


「やはりな。箱を取らないと先へは進めないらしい」


 あつしが言うと


「ああー申しわけない。俺の責任やから俺が一人で片付けるわ」


 とセンタが言ったが


「いや、僕にやらせてくれ。丁度いい機会だから試したいことがあるんだ」


 とあつしが言って左手に弓を出して見せた。


 それは今までの物よりも大きくて、太くなっていた。


「お、あつし、弓がグレードアップしてるやん」


「二十キロの弓が楽に引き続けるようになったからね。さぁ、凪沙さんお願いしていいかな」


「うん。わかった」


 凪沙はそう言って昨日と同じ様に魔物を倒し、すぐにベールで自分達を包んだ。


 あつしは矢を出し、ギリギリと弦を引き絞り、魔物が沸いてくるのを待った。


 やがて魔物が現れた瞬間、あつしは矢を放った。


 放たれた矢は、途中で大人の腕よりも太い鉄の矢に姿を変え、唸りながら魔物の心臓に命中し、ドゴン!という音を立てて貫通した。


 魔物は体に風穴を開けられ、咆哮しかけた姿のままで止まり、倒れて消えた。


 それは一瞬の事だった。


「うはっ!あつし、強烈やな!」


「うむ、これはいいな。これ程とは思わなかった」


 そばで見ていたエルフ達はただただ驚いているばかりだった。


 彼らにとってセンタたち三人は会った最初の時とは違い、もう遠い存在になっていた。


「あ、そやそや」


 センタが言って魔物の消えた場所へ行きすぐに戻ってきた。


「やっぱり落ちとったわ」


 センタが手のひらに乗せた物を見ると、模様は少し違うが最初の村で魔物が落とした物と同じ箱だった。


「やはりこれがないと先へ進めないようになってるな」


 あつしがそう言って


「僕が持っておこうか」


 と言ったが、センタは箱を見つめたまま返事をしないで何やらブツブツ呟いていた。


『これを戻せばまた沸くんやろな。俺もあれを試せるな。いや、魔物がいなくても試せるか?そやけど、どれ位の威力があるかが分からんな』


「センタ、どうしたんだい?」


「あーいや、俺も試したいことがあんねんけど、もっかい戻してみようかなって」


「戻しても、また沸くという保証はないぞ」


「それもそやな。じゃあ魔物がおらんでもええわ。凪沙さん、あのベールは大きいもんでも大丈夫かな?」


「さぁ?やってみなくちゃわかんない」


「よっしゃ、じゃ俺にかけてみて」


「うん」


 凪沙はセンタをベールで包んだ。


「よしっ!」


 センタは気合を入れて皆から離れようとしたが


「あっと、これ渡しとこ」


 そう言ってあつしに箱を渡し、そして少し離れたところで立ち止まった。


 センタは何をするのだろうと皆が見ていると、センタの体が段々と大きくなっていった。


 それにつれてセンタを包んだベールも大きくなっていった。


 そしてセンタの体はさっき倒した魔物と同じくらいの大きさになった。


「どや?まだまだ大きなるで」


 とセンタは言ったが、その声は爆弾が落ちたような大声だった。


「センタくん、声が大きい!耳が痛いよ」


 と凪沙が言うと


「え?おれ普通に喋ってるで」


「体が大きいと声もおっきくなるみたいだよ。もう分かったから元に戻れば?」


「うん。でも、ちょっと待って」


 センタは右手に刀を出した。


 それはセンタの体に釣り合う巨大な刀になっていた。


 センタはそれで、近くに生えている大木をなぎ払った。


 刀がなぎ払って行ったあとは、何十本という大木がすっぱりと刈り取られていた。


 エルフ達は驚きを通り越して、ただただ呆気にとられていた。

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