第26話 技の進化

 そしてあつしは


「センタはまだ寝てるだろうから、ちょっと戻ってくる。後でまた来るよ」


 と言って部屋から消えていった。


 凪沙はセンタを治療した疲れから、ウトウトとしだした。


 そして、しばらくして目を覚ましたが、センタはまだ寝ていた。


 凪沙は、安らかな寝息を立てているセンタを、自分の腕の中に抱いていることに幸せを感じていた。


 凪沙は、センタを抱きしめ自分の胸に顔をうずめているセンタの頭にキスをして


「センタくん、大好き・・・」


 と呟き、センタの顔を自分の胸にぎゅっと抱きしめた。


 その時、センタが手足をバタバタさせながら


「ぶへぇー、ぐ、ぐるじぃー」


 と暴れだした。


 凪沙が慌てて抱きしめていた腕を緩めると、センタは


「はぁー、死ぬかと思った!」


 と、息をハァハァさせながら言った。


「センタくん、目が覚めたんだね、良かった。キミ、死ぬとこだったんだよ」


「うん、俺ももうダメかと思った。ここに連れてきてもらって寝かされたのも分かってたんやけど、寒うて寒うて・・・それから体が暖かくなって、楽になったら寝てしもうたみたいやねんけど、気がついたら息が出来んようになってたからびっくりしたわ」


「あー・・・ごめんごめん。ね、私の言ったこと、聞こえた?」


「ん?なんか言ったの?」


「あぁー・・・いや、いいのいいの。何でもないんだ」


「ふーん・・・」


 センタはそう言って怪訝な面持ちで凪沙を見ていた。


 その時


「お、目が覚めたんだね」


 と言ってあつしが戻ってきた。


「ああーごめんごめん。おかげで助かったよ。ありがとう」


「礼なら凪沙さんに言うんだね。彼女、必死だったんだぜ」


「うん。でも窒息死させられそうになったけどね」


 笑いながら言ったセンタに、凪沙は


「もう!」


 と言って背中を叩いた。


「いや、マジ助かったよ。ありがとう、凪沙さん」


 そう言われた凪沙は、照れて笑った。


「さて、センタも良くなった事だし、あの魔物をどうするかだ」


 あつしがそう言って三人で相談している時に、一緒に行ったエルフ達三人が部屋に入ってきた。


「おお、良くなられたんですな。良かった良かった」


「ご心配をかけてすみません」


「なんのなんの」


 それから六人は、魔物をどうやって倒すかについて相談をした。


「とにかく、あの毒と飛んでくる体毛を防ぐ事。そして硬い皮膚を貫ける刀と矢が必要だ」


 あつしがそう言った。


 センタがそれを受けて凪沙に聞いた。


「うん。それなんだが、凪沙さん。あの緑色のシールドはどれくらいの時間持つの?」


「そうねぇ・・・私の精神力の続く限り?」


「じゃあ・・・一時間くらい?」


「うん。そんなもんかな」


「よし、じゃあ一時間でけりを付けるとして、武器については俺に考えがあるんや」


 センタはそう言ってあつしに何事かを話した。


「うん。それができれば奴を倒せるかもしれない。試してみよう」


 センタとあつしは部屋を出て村を抜け、森まで行った。


 凪沙とエルフ達もそれについて行った。


 森で手頃な木を探していたセンタは、ふた抱え以上もあろうかという大木を見つけると


「うん、これがいいな」


 と呟き、刀を出し、大木の幹と同じ長さにした。


 そして、目に見えない早さで刀を振り、木を切った。


 ゴッ!という音がして、刀は木に埋まってしまった。


「ふむ・・・」


 センタは呟き、刀を木から引き抜くと、また刀を振った。


 今度は、ゴツン!とやや大きい音がして刀はまた木に埋まった。


 センタは何度か切る場所を変え同じ事を繰り返していたが


「よしっ!」


 と言って、刀を構え


「ふむっ!」


 と、気合一閃、刀を振った。


 刀は一瞬で大木を通り抜けた、ように見えた。


 そして、凪沙とエルフ達が見ている前で、大木はゆっくりと倒れていった。


 真っ二つにされた大木を見てエルフたちは、おお・・と嘆息し、凪沙は、センタくんステキ・・・と呟いていた。


 センタのしていた事は、刀が木に当たる瞬間に刀の重さを極限まで重くすることだった。


 木に当たるまでは振りを早くするために軽く、そして、当たる時に重くする事で、切る対象に大きな力を与えることが出来る。


 一方あつしも手頃な大木を見つけ、それに向かって何度も矢を射ていた。


 あつしの手元から放たれた矢は、最初は普通の大きさだったが、木に突き刺さる頃には太く長くなっていた。


 それがさらに太く長くなっていくにつれて、矢は段々と鈍く光る鉄の矢に変わっていった。


 そして、最後に矢は腕の太さ程になり、矢尻も鋭さをまし、なおかつ捻られたようにウエーブした矢尻になった時、矢は唸りをあげて回転しながら大木を貫通していた。


 先に技を完成させていたセンタが木に近寄り、貫通した穴から向こうを見ながら


「あつし、すげぇやん!」


 と、言った。


「うむ。射る度に工夫を重ねていったら、最後にはああいう形になった。が、これをすると精神力を消耗するな」


「うん。そうやけど、まぁ慣れやな」


 そばでずっと見ていたエルフ達は


「この人達はどれだけの力を持っているんだ。救世主とはこういうものなのか」


 と、驚き納得もしていた。

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