第12話 この世界の究明

 宿屋の部屋に入るとすぐに、アンナさんがお茶を持ってやって来た。


「アンナさん、久しぶりですね」


 と俺が言うと、彼女はにっこり笑い、軽く会釈をしてすぐに出ていった。


 相変わらず愛想は悪いが、笑うと可愛い。


「ふーん、普通に飲めるし味もあるんだな」


 お茶を一口飲んだあつしがそう呟き


「さて、君の方がこの世界じゃ古いみたいだから、説明してもらおうかな」


 と、言った。


 俺は、最初にこの世界に入ってから今までの事を話した。


 もちろん、サエちゃんとの絡みは省いたが。


「ふむ・・・」


 あつしはしばらく考えていたが


「君は?この世界は今日が始めて?」


 と、凪沙に聞いた。


「うん。ぼんやりと考え事をしていて、気が付いたらさっきの場所にいたのよ」


「そうか。俺は君たちに会うまでは、ここは俺だけが見てると思っていたんだ」


「ああ、俺もそう思ってた」


「ところが、こうして三人とも同じものを見ているとなると・・・」


あつしはしばらく考えから


「ふむ、確かめなければいけないことがあるな。村長さんを呼んできてもらえないかな?」


 と言った。


「ああ、いいよ」


 と言って俺は宿屋を出たが、村長がどこに住んでいるか知らなかったので、近くにいた男に訊ねた。


「村長さんってどこにいますか」


「ん?ああ、救世主さま。村長さんに用事ですかい?」


「ええ、ちょっと聞きたいことがあるんですが」


「なら、俺が呼んできてやるよ。ここで待ってな」


 男はそう言って小走りで駆けていった。


 しばらく待っていると、男は村長を連れて戻ってきた。


「何か私に聞きたいことがあるとか」


「ええ、僕の連れがちょっと」


 俺は村長を宿屋へ連れていく道すがら、丁度いい機会だと思い、ほかの二人は俺の従者ではないことを説明した。


「ほぉ、そうでしたか」


 なんかひどく素直に納得してくれて気味が悪いが、まぁ、とりあえずは良かった。


 村長さんが部屋に入ると、あつしはすぐに質問をした。


「村長さんはいま、お幾つですか?」


「わしの年かえ?はて、幾つになるんかいのぉ。よう覚えとらんが」


「それじゃ、村長さんはここで生まれて育ったんでしょうか」


「うむ、そりゃあそうじゃろう。ここ以外住んだことはないからの」


 それからあつしはしばらく考えていたが、また村長さんに質問をした。


「村長さんの子供の頃の記憶ってありますか」


「ふむ・・・わしの子供の頃かえ?そういえばよう覚えとらんな」


「この村の、以前の村長さんはなんていう人ですか?」


「以前の村長も何も、この村で村長はずっとわしじゃが?」


「わかりました。ではもうひとつ質問させてください。以前センタに、ここの他にも村があって、ここと同じように魔物に苦しめられていて、魔王を倒せば魔物はいなくなると説明したと聞いたんですが、あなたはそれを誰から聞きましたか?」


「誰から聞いたかは忘れてしもうたが、そういう事になっとるんじゃ」


「では、村長さんは他の村には行ったことがありますか?」


「いや、わしゃ今までこの村からは一歩も出とらん」


「そうですか。わかりました」


「もうええんかの?」


「ええ、ありがとうございました」


 村長は、よっこらしょと言って立ち上がり、部屋を出ていった。


 俺はあつしに訊ねた。


「何か分かったん?」


「ああ、ここは妄想の世界に間違いない」


「いや、それは分かってたことやろ?」


「違うんだよ。俺が確かめたかったのは、ここが次元が違うとか、違う星とかでの、現実の世界じゃないかって事だったんだ」


「え、どういうこと?」


「考えてもみろよ。もしここがどこかの現実にある世界だったら、俺たちはたまたま来れただけて、戻れなくなる事だってあるかもしれないんだぜ。妄想の世界なら、要するに頭の中で作り出している世界だから戻れなくなることはないだろうからな。さっき村長さんが小さい時の事を覚えてないと言っただろ?現実に生きているなら、まずそんなことはないからな。誰かに作り出されたから、覚えてないんだよ」


「ん?待てよ。そうか!そういう事かもしれない」


 あつしはそう言って立ち上がり部屋の中をウロウロしだした。


口では何かブツブツ言っている。

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