野ざらしの箱庭

成瀬なる

プロローグ

 私は、耳を疑った。

 無意識に「はぁ?」と間抜けな笛のような声を出してしまい、八頭身のシャム猫が上品に笑う。

「だから、ここは<いるのにないもの島>。 必要なモノが、中々手に入らない呪いをかけられた魔女の島なのさ」

「それって……つまり、私は、このバケツの中の島から出られないの!?」

 この島の不信感には気づいていた。

 まるで、意地の悪いイタズラみたいに私が必要だと思うモノが手に入らない。ガラスのネックレスだったり、優しさだったり……

 だけど、無いというわけではないのだ。

 本当に「いま、必要だ!」と思うモノが、手を伸ばして掴み取ろうとすると、影すら無くなってしまう。テレビのリモコンを無くしてしまうみたいに、不必要な時には部屋のどこにでもあるのに、必要となるとどこを探して見つからない、みたいな感じだ。

 私がため息をついて落胆していると、ケロケロとカエルの鳴き声で笑われる。

「魔女の呪いには逆らえないな!」

 パーカーを被ったカエルに心を開いた私が馬鹿だった、と心の中で思いながら、睨みつける。すると、カエルは「怒った、怒った」と嫌われ者みたいに笑う。

 ケロケロと鳴くたびに揺れる、パーカーの紐を絞めてやろうか、と思ったとき、シャム猫が言った。

「フロー、笑っていられないぞ。 この子を見つけたのはお前だろ? この島に迷い込んだ人間は、始めに見つけた者が、現実世界に返す義務がある。 さもないと、魔女様に喰われてしまうぞ?」

 カエルは、大丈夫だよ、と根拠のない笑いで返している。

 シャム猫は、大きくため息をつき頭を抱える。その後、紳士に微笑みながら私へ話しかけた。

「ところで、魔女様の手紙には、君の<見つけるべきモノ>は何て書いてあったんだい?」

 私は、話の内容が掴めなくて「見つけるべきモノ?」と首を傾げる。

 シャム猫の青い瞳と数秒の間見つめ合い、スカイブルーの中の瞳孔が真ん丸に開かれて、そのままカエルを睨みつけた。

「お前、伝えなかったな!」

 カエルは、またパーカーの紐を揺らしながらケロケロ笑っていた。

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