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「あらぁ素敵なお店ね」
「ありがと」
きょろきょろ、と見渡してスツールに腰かける栗原さんについ笑みが零れる。嬉しいような、恥ずかしいような。
「砂糖は一つで良かったよね?」
「よく覚えているわね」
「何度も飲ませてもらったからね」
ミルクとカップ、それから小皿を差し出す。
「何も用意してなくて、チョコしかないんだけど」
「そんな、申し訳ないわ」
「いいのいいの、メニューとして出しているものだし、俺のおやつじゃないから」
「でも」
「チョコもこだわって出してるからさ。食べてみて」
躊躇いがちに四角いチョコを一粒口に含むと、その顔が驚きに満ちる。「美味しいわ」
「そうでしょう? 俺も大好きなの。お客様の評判もいいし」
バーのおつまみメニューだとしても、ちゃんと一つ一つこだわって出している。師匠であるマスターがそうだったってのもあるけど、チョコレートは専門店で購入しているし、季節限定も必ずチェックするわけで。
栗原さんに出したのは、スタンダードながナッシュ入りのチョコ。アクセントにピスタチオが入っている。甘すぎず、苦すぎず。相性を考えながら購入するのだが、本当はもっと甘いものが好きだったはず。
「ごめんね、ケーキでもあったらよかったんだけど」
「えっいいのいいの、本当に気にしないで」
「でももっと甘いのが好きだったでしょ」
だっていつも旦那さんと一緒に食べていたのは甘い生クリームがたっぷり使われたケーキだった。もちろんそれも何度も頂いているわけで。
「あっ、それは」
「え?」
なぜか栗原さんは一瞬動きを止めると、ふふふ、と照れ笑いを見せた。
「実は私、あまり甘いの得意じゃないのよ」
「えっなんで」
毛糸の帽子に付けられた、花のモチーフがふわりと揺れた。
「甘いのは、お父さんが好きなの、ふふ」
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