小さな花が揺れるとき
カゲトモ
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商店街を歩いていると、珍しい後ろ姿に出合った。ここで会うのは初めてだ。
その人は花屋の店先に並んだ苗のパレットを覗き込んでいた。
「こんにちは」
すとん、と横に腰を下ろすと、一瞬驚いた顔を見せてにっこりと微笑み返してくれた。
「こんにちは、はなちゃん」
「栗原さん珍しいね、こっちで買い物なんて」
「ふふ、お友達が教えてくれたのよ」
花のモチーフが付いた毛糸の帽子が良く似合うこの人は、以前住んでいたアパートの隣にある、庭付き一戸建てに住んでいる栗原歌さんだ。
栗原さんの趣味はガーデニングで、庭一杯に花と緑が溢れていて、実のなる木もいっぱいあって、いつもいろいろ持たされていた。
金のないあの頃には、優しくしてくれた栗原さんには感謝しかない。
「このお花屋さんには珍しいお花が沢山あるってね」
「へぇそうなんだ」
「ほら、これなんかとても珍しいわ」
「へぇ」
「こっちもね。あぁ、これも可愛らしいわ」
これもいい、あれも素敵、と言う栗原さんはまるで少女に戻ったようだ。もう随分とお年を召しているんだけど。とても可愛らしい。
「ふふ、買いすぎちゃった。お父さんに叱られちゃうわね」
「大丈夫、お父さん優しい人だから」
「あら、そんなことないのよ? 怒ると怖いんだから」
「え~、あの優しそうなお父さんが?」
「でも、最近はあまり怒っているとこ見ないわね」
年老いたからかしら、と他人事のように言う。そんな栗原さんはいつ見ても上品な若さに溢れているように思う。
「よかったら一杯飲んで行かない?」
「え? 私?」
「そ」
「ごめんなさい、お酒は飲めないのよ」
「ふふ、コーヒーも紅茶も出せるから、良かったら飲んで行ってよ」
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