第26話 念家炎上
少し昔のことではあるが、瑩珠の父が照王太子の位を継ぐ少し前。すなわち王孫であった頃のこと。
実は、初代照王、紫陽永良と二代目である瑩珠の父の間にはもう一人王がいるはずだったのだ。それは瑩珠の祖父。ある悲しい事件のせいで存在を口にされることがなくなり、歴史に名が残らない可哀想な王太子である…
その王太子の名は、
峰芽は、永良とその妃である
峰芽が15になり、王太子妃を娶ることになった。
「峰芽よ、妃はそなたの好きな姫を娶るが良い」
「
琴風は冷宮送りになった際、家門から勘当されていたが太妃となったときに親戚は増長し権威を振るうようになっていた。琴風はその事に心を痛め、鳳城から出るときは永良の許を訪ねるのだった。
釘を刺された峰芽だったが妃にしたいと願う姫がおり、その姫は念家の端に連なる者だった。峰芽は時をかけて説得し姫が念家に関わらないことを条件に母からの許しを得た。
「
春霖と呼ばれた姫こそが子妃、
子妃は気立てが良く、すぐに蘭々にも気に入られて数年後には瑩珠の父を産んだ。
そんなある日…。
春霖に客が来ていると聞いた蘭々は部屋を訪ねて共にもてなそうと思った。
「シュ…」
なにか声が聞こえる…間合いを図って声をかけようと思い、蘭々は欄干が途切れているところに腰掛けた。
「お母様?いらしてはなりませんとあれほど…」
「だって、わらわの孫に会いたいと思いましたのよ?ねぇ、春霖。まだ蘭々には言っていないの?」
「義母様はご存じありませんわ」
「峰芽様も仰らなかったのねぇ…」
蘭々は体を震わせた。愛しい王太子と子妃が自分になにか隠している…そして何よりも、子妃が母と呼んでいる相手が…。
「念…
あれほど嫌だと伝えた念姫。子妃はその娘だという。
「蘭々も鈍感なのねぇ?こんなに顔立ちも似ているというのに…目が衰えてしまったのかしら?」
「お母様」
春霖は少し強めに呼んでたしなめた。
「あらあら、子妃殿下…申し訳ございません」
「良いのです…そういえば…」
怒りに燃えた目をして蘭々は王府の本宮に戻った。
「そういえば、峰芽様は?本邸にいらしたと思いますが?」
「えぇ、殿下。旦那様と歓談なさっておられますわ」
「そうですか、それは良かった。あぁ、義母様が午睡なさる時間ですわ、ご機嫌伺いいたしませんと…」
「大変ねぇ…殿下、わらわはこれでお暇しますわ」
夕玉は帰っていった。
その頃、蘭々は…。
荒々しい帰宮に女官達は驚いた。
「王妃様…?」
「大事ない。もう午睡に入る故、子妃が伺いに参っても知らせぬで良い」
「承知、いたしました」
憤然と蘭々は宝座に座った。
「菊花茶でございます」
茶を飲んで落ち着いた蘭々は考え事を始めた。
(早急に春霖を王府から去らせたい…だが、理由が見つからぬ…)
「今日は風が乾いているわ、火元には気をつけなさいね」
「はい、女官長様」
女官達の話を聞き閃いた。
「女官長」
「はい、王妃様」
「今日は天気が良い…良い外出日和だとは思わぬか?」
「左様にございますね」
「春霖も長う父母に会っておらぬ。私は良いから父母へご機嫌伺いをしてくると良い、と春霖に伝えなさい。わらわは午睡前の散歩をしてくるとしよう。あとで手土産を届けさせる故な?」
「はい、いってらっしゃいませ」
数人の女官を連れ、蘭々は厨房を訪れて手土産を春霖の宮に届けさせた。
本宮に戻る途中、春霖と会った。
「義母様、ご機嫌麗しゅうございます。これより父母の許へ伺って参りますね。手土産までご用意くださって…嬉しゅうございます」
「良い。ゆっくりして参りなさい。気を付けてな?」
「はい」
こうして春霖は念家本邸を訪れ、帰らぬ人となった。
不可解にも、一夜で念家が焼失してしまったのだった。
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