花が散るころに

柚木奏多

第1話

 今思うと、やりたいなんて思わずやめておきただただ平穏な日常を生きていくべきだった。「その時やりたいと思ったらやればいい。後悔は後でやればいいんだ」と人は言うけれど、思い返してみてもただただ空回りだったし、たくさん人を傷つけて自分が欠陥人間であることを思い知らされただけだった。しかも途中までそんなことに全く気付いていなかった。それどころか一歩踏み出してみればこんなに鮮やかで思いもしなかったことを経験して本当によかったなんて思ってたんだ。むしろこんな世界知らなかったら、つまらない人生でも妥協して適当に生きて行けたのに。


 少し甘い蜜を吸ったら、またその花の元に行けば蜜を吸い続けられると信じてしまったんだ。まさか目につきにくい花のその蜜を吸ったことで花を枯らしてしまうなんて知らなかったんだ。君の優しさに生かされていたのに無為にしてしまっても怒らないどころか「君の選択は間違っていないよ」と笑顔で言ってしまう君に僕はどう償ったらいいんだろう。でも僕ごときが「消えたい。生まれてこなければよかった」と言うと彼女を一番悲しませることを知っている僕がせめてできることは「また君と出会うときがあれば、僕は君のためにすべてを捧げさせてほしい」と願うくらいだ。優しすぎる君はそれを拒否するのだろうけど。花が散るころにようやく気付いた愚かな僕の声は聞こえてる?


聞こえなくていいよ。ただの独り言だからさ。「今までありがとう。またね」って言っただけだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る