砂上のフロンティア コンセプトノベル~砂海と船と懐中時計
アハレイト・カーク
砂海と船と懐中時計
船は嵐の中を進んでいた。しかし、その嵐は雨風吹き荒ぶ嵐とは異なり茶色い。
それは砂嵐であった。嵐の中では砂粒が吹き荒れ、砂粒同士の摩擦によって発生する静電気によって、雷が鳴り響く。そんな中を、砂上船「フロンティア号」は進んでいた。
この世界は陸地が7割を占め、それらがほぼ一つに集まって、超大陸「ゾネス」を形成していた。
大陸の沿岸部は人が立ち入れないほどのジャングルがあり海へと辿り着くのは容易ではない。
ジャングルは、内陸に向かうにつれて草原地帯などに変わっていくが、内陸部の大半は砂漠で、そのほとんどが砂海と呼ばれる極度の乾燥地帯であった。
砂海の砂は、極度の乾燥によって完全に水分を奪われ、足を踏み入れればそのまま沈んでしまうような危険なものであった。さらに、砂海に適応した生物「砂獣」と呼ばれる生物たちは、砂海に踏み入った者たちを容赦なく食い殺してきた。そんな危険な場所にもかかわらず、人々は砂海によって隔たれた都市間の貿易などのために、砂の上を航行する船、「砂上船」を造り、生を繋いできていた。
船は嵐の中、奇妙な石柱の中を縫うように航行する。石柱はとても巨大で、いくつもの穴が開いていた。このようなものが大陸の至る所にあり、砂の下に埋もれている。暗礁となっているものも多く、石柱が大量にある海域は砂海の難所として知られていた。
「おい! 一時の方向に光。リーファスからの誘導灯だ!」
マストの先端で周囲を見渡していた、見張り役の船員が双眼鏡を覗き込みながら叫ぶ。
「了解! おもぉーかぁーじ」
操舵手が舵を切り、船はリーファスへの針路を取る。
彼らは全身を分厚い砂獣の皮を使った砂防服を身にまとい、顔にはガスマスクの様なものを取りつけることで、弾丸のように打ち付ける砂から身を守っていた。
船体も、通常の木材では砂嵐の中では数秒も持たないため、特殊な薬剤に漬け、固くした強化木材を使用しており、長時間の航海も可能であった。
フロンティア号は、砂上船としては比較的小柄な部類に入るので、船員の数は少ない方であった。また、都市には所属しておらず、自由に交易や砂獣狩り、時には砂賊行為なども行う何でも屋の様な存在でもあったために、都市からの援助はほとんど無く、船員は殆どが志願によって集まったものであり、常に不足気味で、人によっては一人で複数の仕事をこなす必要もあった。
しばらく進むと船は嵐を抜けた。薄っすらと陽炎で揺らめく、砂漠の中に取り残された都市、リーファスが見えてくる。
「いよいよ大陸一と名高いリーファスの街ですね。船長」
彼女は、副官のリィル・ミールテリス。とにかく明るく、砂上の男たちのアイドル的な存在である。
そして、船長と呼ばれた男。彼の名はゲン・グロータス。砂の上の人間ならば彼を知らない人はいないと言われる程の、砂獣狩りの天才として名を馳せている男であった。
「そうだな。いよいよだ。砂竜の討伐依頼。四年ぶりだな。リアーナ……。お前の仇は絶対に取ってやる」
そう言って、彼は自身の手の中の、針の止まった懐中時計を握り締めた。
四年前、ゲンは婚約者であったリアーナ・ミールテリスや、自らが率いる船団と共に、砂獣狩りの依頼を受けていた。
この日は、リアーナの妹、リィルの誕生日であったため、報酬で豪華な食材でも買って行ってやろう。などと話をしていた。
しかし、その日の夜、港に帰ってきたのは、至る所に傷を負ったゲンの船「エクスペディション号」と、出港時の2割もいかない彼の仲間たち。無事だった船乗りたちもほとんどが怪我をしており、腕や足などを食い千切られている者もいた。そして、ゲンの手には、彼がリアーナに誕生日プレゼントとして渡した懐中時計が,針が止まり血にまみれた状態で力なく握られていた。
『奴は轟音を轟かせながらやって来る。奴が通った後には何も残らない。』などと言い伝えられてきた砂海の主。その名はリヴァイアサン。それが、ゲンから大切な婚約者と、多くの仲間の命を奪っていった。
そんな忌まわしい記憶を思い返していると、船はリーファスの港に到着した。ゲンは気持ちを切り替え、リィルに語りかける。
「よしっ。行くか、依頼人の所へ。絶対にリアーナの仇を取ってやる。この時のために俺は四年間を耐えてきたんだ。待ってやがれ、リヴァイアサン! リィル、行くぞ!」
「はいっ! 船長!」
そう言って二人は、リーファスの市街へと向かって歩いて行った。
砂上のフロンティア コンセプトノベル~砂海と船と懐中時計 アハレイト・カーク @ahratkirk83
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