第15話 靴
理世と友里と一緒に過ごした後、伊坂は看護師の千穂に理世の様子をよく見ていてくれるよう頼んで仕事に戻った。理世を一人にしておくのは心配だが仕方がなかった。
勤務先ビルの前でタクシーを降りると、揃いの黄色い帽子をかぶった子どもたちがエントランスから出てきた。二歳くらいだろうか、エプロンをした女性二人に引率されているから、ビルの一階にある保育園の子ども達だろう。
みんなしっかり歩いているな――そう思って伊坂は、自分が子供たちの足元を見ていたことに気付いた。
「保育園、申し込みました?」
後ろから声をかけられ振り向くと、本条翔太だった。
「まだ四月だけど。もう申し込めるの?」
「ここは大丈夫です。友里ちゃんは二月生まれだから、来年四月に一歳児枠で入園ですよね。認可は十一月頃に一斉申し込みですけど一歳は空きがほとんどないので、認可外で申し込めるところは、今から申請しておいた方がいいです。空きが出れば、四月を待たずに入園できることもありますよ」
そうなのか。友里を自宅に迎える準備もまだだというのに、保育園の申し込みか。またすることが増えたな。でも丁度いい。手間はかかりそうだが、理世の気が紛れるかもしれない。今夜にでも話してみよう。
エレベーターに乗ると二人の他に乗客はおらず、扉が閉まると、本条は手にしていた紙袋を差し出した。
「こんなところですみません、事務所にお持ちするつもりだったんですけど、ちょうどお会いできたので」
中には大きな赤いリボンのついた箱が入っているのが見える。
「友里ちゃんに」
「ありがとう」
伊坂は紙袋を受け取った。
「何?」
「靴です」
「……へえ」
「十三センチです。歩くようになってから使えるようにと思って」
本条が笑顔で言った。
伊坂はさっきの保育園児たちの足を思い出した。水色やピンクのスニーカー。まだ少し頼りないが、しっかりと地面を踏みしめていた。
友里は、あんなふうに歩くことができるのだろうか。
そう思ったら不意に熱いものがこみあげ、涙が一筋、頬を伝った。まずいと思ったが、あまりに突然で隠しようがなかった。本条の笑顔が戸惑いに変わる。察しのいい彼のことだ、友里のことで何かあったと気付いただろう。話したい衝動にかられたが、伊坂はその気持ちを抑えた。素知らぬふりを装い指で目頭を軽く拭うと、エレベーターは三十階に着いた。
「じゃあまた。靴、どうもありがとう」
伊坂は紙袋を軽く掲げ、いつものように淡々とした調子で礼を伝えた。その表情からは、つい先ほど見せた脆さは消え去っていた。
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