第3章 狂いし頂点
第16話 西の街カサンド
「ふぃー、やっと着いたぜぇ・・・」
今までの緊張が一気に解け、全員がため息や間の抜けた声を出し始める。
僕らは、二日かけてやっとこさ西の街カサンドについたところだった。森を一日で抜けるとかいう目標は盛大に砕け散り僕の考えが浅はかだった事が痛いくらいにわかった。結局僕らは森を丸一日かけて抜けたのだった。
夜は交代制で敵を警戒、安心もできない眠りの中、疲れは和らぐどころかむしろ溜まっていったし、ほんとに命がけかもしれない。
僕らはこの町では約三日間の滞在を予定しているつもりだ。一日目、今日はもう静かに宿を探してゆっくりして寝るつもりだ。二日目は予定を立て、三日目に準備及び観光のでも近いものをしようかと考えている。
別に急ぎの用でもないしそもそも目的もなく旅をしているだけかもしれない。少なくとも僕には表の世界を見てみたいし、その情報を得たいし、もっと願望を言うならばこの世界事態を変えたい。そのために僕は旅をしているのだ。
「宿屋みたいなとこ探しておきたいな。」
「俺ぁもう疲れて疲れて死にそうだわぁ・・ふあぁ」
レントは盛大にあくびを垂らしてそんな話をする。確かに慣れない世界でのこの旅は僕らにはあまりにも酷すぎる疲労が襲い掛かってきた。体中筋肉痛だし、散々だ。
そんな事を考えながら僕らは街の門を後にした。
◇
「安い宿あってよかったなー。」
「あぁ、高かったら出費的に痛かったな。」
あれから数分、街の大通りを歩いていた僕らは奇跡的に安い宿を見つけ出せた。値段は安いがボロボロというわけでもなく、キチンと部屋は清掃されているし、おおよそ不快感を感じるところではなかった。
僕らの所持金はお世辞にもおおいとは言えない。卒業間際にもらったコインで換金できた金は旅の用品を買えば雀の涙同然しか残らなかったし・・・。
食べ物は森だからか、山菜のような物はたくさん生えていたし、なんと言ってもキツナとキツネがクレイプ森にながい間いたおかげで食べれる物と食べれない物を教えてもらいこともできた。そしてキツネは発火系の能力の持ち主。捕まえた動物や山菜は全部水で煮込んで食べることもできた。
だが、一度食べた沼蛙という生物はタンパク質が豊富なんだが、ものの見事にげろまずだった。皆速攻で吐き捨てたくらいだ。なんせげろまずだったから。ちなみに沼蛙を食べようといったのはレントだ。
「いやぁ、安心したら腹減ってきたな。」
「そうだな、少し飲食店でも探しに歩こうか。」
「沼蛙みたいなのは嫌だからね?」
・・・・・・・・。
「あ、あれ見ろよ!!キッチンぱぺぺぷるだってよ!!おいしそうだなぁぁぁああ!?な!?」
レントが宿屋の窓から見える謎の飲食店を指さす。まぁ、どうでもいいが、とりあえず突っ込みどころ満載だ。
名前からして終わりだろ。なんだぱペペぷるって、つけた奴はよほど感性がぶっ飛んでるやつだろう。それに、OPENと白いペンキで書かれた看板には使い古したような薄汚い雑巾のようなものが掛けてあるし、外灯は虫の死骸だらけでもう光ってるのかどうかも不明だ。これは僕の気のせいかもしれないが煙突から出てる煙が青色のような気がする・・・いや、これはきっと夜空のせいだ。
「・・・・」
レントが指差し固まる。
「で、ここ行くのか?」
「いかー・・・ないよな。」
「ほ、ほかの場所探そっか」
アカネはもう苦笑いだった。申し訳ない・・・
宿から出て10分ほど経った頃だった。大通りから少し外れた小道の傍らにある一軒の白い建物を見つけた。その建物の近くにある高い看板には「FLANSHU」と書かれていて、どうやらファミリーレストランのようなものだという事がわかった。
「ここいいんじゃないか?」
「ああ、そだな、きれいだし、うん。レントが選んだぱぺぺぷるよりかはいいな」
「あ!あれはノーカンだ!自己満営業のぼったくりだ!」
まぁまぁ、とアカネがこの場を鎮めてくれる。
「とりあえず食べようよ!私お腹空いちゃった!」
アカネの声で、僕らはその白くきれいな外装のレストランに足を踏み入れる。別段、内装は外装とは違い、レンガ造りになっている。僕は、このレンガ造りの建物は好きだ。温かい気持ちになって落ち着ける。
僕らが入ってきて、白い服を着た女性がカウンターから飛び出すように出てくる。
「何名様ですか?」
その店員の声はなぜか震えているような気がした。それを僕は知らずに「三人です」と手早く答える。かしこまりましたの旨を告げた店員は僕らを隅の席に案内し、逃げるようにそそくさとカウンターに戻って行ってしまった。
「皆、何食べる?」
「俺ぁこのクルル鳥の串焼きだな。」
「私は海鮮グラタン。」
「僕もそれにしようかな。魚介類が食べたい気分だ。」
それぞれがそれぞれの食べたい物を選び、店員を呼ぶ。カウンターから急いで出てきた女性はペンとオーダー表を持って僕らの注文を受け付けた。
「なぁ、なんか様子が変じゃねぇか?」
「ん、確かに少しおかしいな。」
レントが言った通り、店に入ったあたりから少しおかしい。まず店内の客数だ。オシャレだしきれいな店だから味は悪くないと思うんだが・・・なぜかこの店は客足が少ない気がする。次に雰囲気だ。接客もなにかにおびえているようだし、なにせ静かすぎる。店内に微かに流れるジャズ系の曲が耳うるさいくらいに大きく聞こえるほどだ。いったいなにが原因でこのような状態になっているのだろう。
そんな事を考えて数分。次々と料理がでてきてすべての料理がそろうまでそう時間はかからなかった。
「おいしそうだよ・・・ね」
アカネがそんなことを口にする。アカネの言った通り見た目は全然わるくないし、それぞれの料理にあった調味料の香ばしい香りが微かに鼻孔を刺激する。
いかがな物かと思い、恐る恐る料理を口へと運んでみる、が。特に変な味もしないし、むしろ美味しい。味には決して問題はなさそうだ。なら・・・
「どうして、こんなに空気が重いんだろうね・・・」
アカネがそう言葉を発した瞬間、店の扉が静かにあけられた。
チリン・・・・
なんお変哲もない。扉をあけたときになる鈴の音が、静かに店内に響き渡る。しかしその音はなぜか重たく、僕らの肩にのしかかるように響いた。
ついで、店内には風が吹く。決して強くない、紙のナプキンが少し揺れるくらいに風だった。
だが、一つだけわかることがあった。
これは、自然の風じゃない。
「い、いらっしゃいませぇ!!ただいま席にご案内します!!」
カウンターに隠れるように居た店員が突如声を張り上げて言う。緊張と不安が混ざったような硬い声だった。その店員に案内されたのは一人の少年だった。背丈は170・・・あるかないかの青年で、僕らとさほど歳が変わらないように思えた。
その少年はふと立ち止まり僕たちの方を凝視する。白にごく少量の緑を入れたような髪の毛は長く、表情まで読み取る事は難しかった。
そして、一歩踏み出したかと思った瞬間、青年は僕らの目の前に立っていた。
「ここ、俺の店なんだがなァ・・・まァ、いっか・・・」
少年はそう言い、続けて言葉を発した。
「ご退出願おうかァ・・・きひっ。」
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