霊飼い術師の鎮魂歌
夕々夜宵
第1章 天職〜旅立ち〜
第1話 天職
ヒュウウウウ・・・
耳を吹き抜ける風切り音が鼓膜を震わし、身体に付いた傷が少し悲鳴を上げる。
目がおかしくなったのか?そう思わせる程に目の前で立ち上る天を貫く狼煙が紫色に変色している。
人の悲鳴と目の前で暴れている人ではないものが、痛々しいくらいに傷を身体に刻み、血を流し、泣き叫ぶ、喚き叫ぶといった悲鳴が辺りの空間を支配する。
「嗚呼、神様、神様・・どうか、この悲劇を・・」
僕の隣では、両手の指を絡ませて、ただひたすらに存在しているかも定かではない神に祈りをささげている神父が目に写る。
だが、そんな神父の言葉も、もう続くことはなく、「ぎゃあ!」の一言を最後にこの世を去ってしまった。
「グルルルルル・・・」
すべての原因は僕の視界に踊るように飛び込んできた。固い鱗の外殻を持ち、その右手には不恰好に作られた木の槍、口からは絶え間なく涎がグジュグジュと滴り、地面にシミをつけている。爬虫類のような鋭い眼光のその奥には、怯えて震えている僕の姿が映り込んでいた。
この街に突如現れ、まるでプログラムに従って動く機械のように人を殺し、家屋を破壊している目の前のソレは・・・妖怪、リザードマンだった。
「ゴァルルルルル!!!!」
目の前のリザードマンは大気を震わす程のけたたましい方向をあげ、左手に持ったエモノを空高く振り上げる。
「あ・・・ああ・・」
僕はリザードマンが行った行為を見ても、恐怖という枷が身体を蝕み、行動を許さない
固まった身体でできたことは、ただ一つだった。
ただ、瞼を閉じ、リザードマンの持つ槍に串刺しにされるのを待つことしか、僕にはできなかった。
ビシィ!!!
刹那、死を覚悟したその時、瞼越しでも眩しいと感じるほどの光の量が襲ってくる。
何事かと思い、目をうっすらあけるとそこには、僕を襲おうとしていたリザードマンの姿はなく、代わりに一人の人間が立っていた。
「やあ、少年、大丈夫かい?」
目の前の人間が手をのばしたその時、僕は糸が切れたかのように意識を手放し、気絶した。
◇
アラン国西暦、895年
この世界は陽と陰、つまり表と裏、二つの世界が存在すると理論付けた学者がいた。表の世界は明るく平和的な世界。裏は悪逆非道、明日生きていけるのかわからない世界。
僕が住むこの世界は、裏の世界と言われている。表の世界で唱えられている"発展"という言葉は無難にも乏しく、ただ、今日という日をかみしめながら生きている。
"発展"。どうしてこのようなことが裏の世界ではできていないのか、その理由にあたるのが3神と呼ばれる存在にあった。
3神、それは天使、死神、仙人といわれる、三つの神の存在だった。
世界の創造者、天使。天使は世界を造り、命を創り、大地を作ったと言われている。
世界の実行者、仙人。仙人は平和を与え、言葉を与え、そして、知能を与えた。
世界の破壊者、死神。死神は大地を引き裂き、命を裁き、破壊した。
そして人間と共に生み出された生命があった。それが「妖怪」と呼ばれる種族だった。
妖怪には大きくえ分けて二つのタイプがある。一つが人間と共に発展を目指し、協力しあい、生きる妖怪だ。そしてもう一つが、人間を嫌い、殺し、発展を妨げる妖怪だった。
人間とは違い、妖怪は生命力というものが強大だった。
筋力も段違いの世界だ。人間が妖怪に勝てる確率など、誰もがわかっていた。
だが、それにただ弾圧される人間もいなかった。遠い昔、何者かが作った4つの能力を、人間は自分の物にし、強大であり凶悪な妖怪に立ち向かうすべを、身につけていた。
アラン国国法第一条、満15歳を迎える選ばれし少年少女に天職を与え、あくなる妖怪に立ち向かう戦力を4つに分ける。これは、全なる妖怪と人間に与えられ、我らの世界を発展させる希望を託す。ここに、天職を表記する。
1、『科学的能力者』
科学的技術を与え、多次元計算により力を生み出すもの。ただ、無限に能力は発揮できず、疲労により能力が弱体化してしまうため、休息をとりながらの戦闘へとなる。
2、『非科学的能力者。』
主に魔術師、魔導士と呼ばれ、魔道書に写された呪文を唱えることにより、能力を発動する。科学的能力者同様、疲労により能力が弱体化してしまう。
3、『剣士』
主に近接武器で肉弾戦を行うことで妖怪を駆逐する。剣士は3つまでのスキルを使い、多種多様な戦術を組み、戦闘する。
4、『霊飼い術師』
主にGHOST TAMER、略してGHOSTER(ゴースター)と呼ばれる。これにおいては小確率で天職に与えられる。死者を飼い、死者が生前持っていた天職を使用することが可能。身体への負担は高いものの、操ることが可能になれば、その力は計り知れない。
以上、上記が妖怪に対する4つの力である。
天職にはそれぞれの学校があり、天職を手にしたものは学校への入学を義務づけられる。
そして、僕、レオン・シャローネもまた、今年で15歳になり、天職をあたえられるときだった。
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