いきなり神を殺せって言われても…ねぇ……?

狐狸夢中

第一部

第1話「よくあるラノベの導入っぽく」






「…………あれ?どこだここ?……森?」



いつもの部屋じゃない。知らない場所に突如丸腰で放り出されている。なんだこれはまるで物語の導入部分のようではないか。


…………。


寒くは、ない。むしろちょっと蒸し暑いくらいだ。……熱帯?そういえばよく見ると木も日本ではまず見かけないヤシの木?のような形だ。テレビとかでよく見るやつ。森というより密林か。


周りに人の気配は……。


ん?あれは寝袋?中に誰か入ってる?


……近づくか?こんな不可解な状況で不用意に未確認物体に近づくなんてのは御法度だ。だが、周りにはそれ以外に木しかない。


ふぅ。本当に物語の導入のような展開だ。

では想像してみようか。考えられるパターンは2つ。


①中から怪物が出てきて俺を殺すという、実は俺は冒頭のかませ犬だったパターン。

②美少女が入っていて、共に世界を救うという主人公パターン。


俺的には断然②がいいが……。

最近はグロテスク押しなWebマンガが増えてきたからな。よくネットの広告である「この恐怖からは、逃れられない。」みたいな。うーん。その確率高いなーwそして俺が喚き散らして死んだあとに主人公たちが来て怪物と闘うんだろ?


いやでも②という線も無きにしも非ず。

近年増殖の一途をたどるオタク。そんなオタクの大好きな展開が「突如舞い降りた美少女。」だ。オタクってのは基本、受動的に起こるご都合主義が大好きだからな。だいたいなにかするわけではなく運命(笑)に期待値前振りするんだ。そうなればこの寝袋を開けたら……。ロリかな?だいたいこーゆうのって美少女ロリが出てくるのが相場だよね。で、なんやかんやあって「○○のこと……好き……。」てなるんだろ?


…………。


……開けるか。



そーれ。ビリビリビリーっと。ビリビリってのは別に寝袋破いた訳ではないぞ?ファスナーを開ける音だぞ?ただファスナーを開ける音の擬音が思いつかなくて……。


さて、待ってるのは俺の死か、それとも、美少女か。


……おっと、ファスナー噛んじゃった。やべ。これジャンパーとかでよくあるやつ。こうなるとなかなか開かな




「はよ開けろっ!!!!」




ボゴォッ




痛ってえええええええええ!!!

えええええ!?誰えぇぇ!?


「こっちだ後ろだ。」


「…………お、②だ。」


「は?②?何を言ってる?」


さぁ②とはどういうことか?

そう!俺は幸運だった!俺を背後からどついたのは美少女だった!


「まったく、何故目の前の寝袋を素直に開けんのだ。」


「……君は誰だい?」


「私の名は、サキ。」


サキ……。うん、よくある名前だな……。

サキちゃんの容姿は……黒いショートカットにバストはBあたり?服装は普通ではないけどアニメに出てきそうってのは分かる服装。もちろん可愛い。


ていうかおいおいマジでそれっぽくなってきたぞ。

ホントに物語、いや、どっちかと言えばラノベか。ラノベの主人公とヒロインの出会いみたいになってけど、これはこのまま俺は勝ち組行きですか?


「……サキ……ちゃん?んーと。色々説明してもらえると嬉しいのだけど。」


「説明も何も私も君と同じ状況だ。突如この密林に放り出させた。その寝袋と共に。」


「マ?」


あれ、通常のラノベならこの美少女はこの世界に熟知していて俺にこの世界で生きる術を教えてくれるのだけど。


「マ?とは何だ。」


「本当ですか?の略だけど。……サキちゃん。君、出身は?」


「日本。」


んんー?日本?あっれー?君、異世界出身じゃないのー?


「当たり前だろ。じゃなきゃこうして日本語で話せないだろうが。」


確かに。


「おい、君も名乗ったらどうだ。」


「おっと。それもそうだね。俺の名前はシロウ。18歳だよ。よろしく。」


「シロウか。よろしく。」


…………サキちゃんは日本出身。「マ?」が通じない。サキちゃんは多分高校生くらいだろ?なのに今どきのjkが「マ?」知らないのって。いや、まぁ、ネットに詳しくなければ知ってなくても不思議ではないんだけど。



……もしかしたら。

……これは。



「ねー。君はここに来る前何してたか覚えてる?」


「それは……。ふ、普通の生活だ。が、ガッコーいって、友達いて。それとそれと……。」




…………はい。




か。



「あーあー。隠さなくていいよ。君もそういう人間なんだろ?」


「……シロウも?」


「ああ。俺もサキちゃんも元々だ。」


「!」


………………ビンゴ。



はぁ。この物語は、そういう系かぁ。嫌だな。せめてのならチート増し増しのドッカンド迫力バトルをしてみたかったぜ。


「シロウ。君はどんなだ?」



……さて。来るかな。



ドスンッドスンッ


「ブロァァァァァァァァァァ!!!」


「!? なんだ今の鳴き声は!」


サキちゃんは分かってないか。これがどういう系の物語なのか。


「サキちゃん。時間が無いから簡潔に聞く。君のは戦闘向き?」


「……そうだ。」


「ならOK」


バキバキバキッ


「ブロァァァァァァァァァァ!!!」


はいはいおいでなすったよ怪物が。しかも筋肉系だ。まさにって感じ。


ブオンッ


おっと拳をこっちに振り下ろしてきた。


避けます。


ドスンッ


はい成功。


「サキちゃん。君の能力で―。」



ドパァンッ




「…………ヒュー。」


怪物との戦闘はすぐ終わった。

案の定サキちゃんが瞬殺してくれた。怪物の頭部は中を舞い、残された体は音を立て倒れた。


「やっぱね。やってくれると思ってたよ。サキちゃん。」


「……シロウ。君は分かってたの?怪物が来ることを。」


「分かってたというか、分かったというか。予知じゃなくた推理ってこと。」


「なんで推理できたの?君の?」


「いやいや、テンプレ通りに物事が進んだ場合の当然の結果だよ。」


「テンプレ?」


「……まぁ、王道というか、典型的というか。」


「私にはシロウの言ってる言葉が分からないわ。」


「サキちゃん。今度は俺が質問する番だ。どうやってあの怪物を殺した?」


「……私用の寝袋に入ってたこの手袋よ。この手袋に私のを乗せた。」




「へー。」


「……いちど状況を整理しましょう。」






サキちゃんと色々話すことにした。


「はいまず俺から聞くよ。サキちゃんは俺と同じく持ち故に元々は監禁されていた?」


「そうよ。」


「この密林に来てからどのくらい経ってる?」


「まだ一日も経ってないわ。ただ偶然シロウより早く目覚めて寝袋を開け中身を確認し、近くにいたシロウの動向を観察していたのよ。」


「だから寝袋を開けるのを渋ってた俺にしびれを切らしてどついて来たんだ。」


「ええ。」


「どんな能力であの筋肉怪物を倒した?」


「私の能力は《衝撃波》。衝撃波を怪物の顔面前で放ち首を吹き飛ばしたわ。この手袋は私に来る衝撃波の反動を消してくれるみたい。」


「なるほどねぇ。衝撃波か。けっこうえげつないね。」


うん。ラノベっぽくなってきたよ?美少女が強い能力持ちだ。そしてかませ犬役の怪物を瞬殺した。まさにテンプレだ。


「シロウ、君の能力は?」


「俺?俺の能力は大したもんじゃないけど……。」


「言って。」


「……俺の能力は――。」







どうやらこの物語は「特殊能力有りのサバイバルバトル」系な気がする。

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