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「なんで」

「いや、奈々子がさっき、お姉ちゃんになるって言ってたから、てっきり子供が出来たのかと」

「え」

「え」

「奈々子が?」

「違うの?」

 当の奈々子は何の事だか分からないと言った表情だ。

「奈々ちゃん、どうしてそんなこと言ったの」

 奥さんが腰を折って少し怒った風に言うと、奈々子が小首を傾げて言った。

「え? だってままのおなかのなかから、ななちゃんにこんにちはしたよ」

「え?」

「おなかのあかちゃんがこんにちはしたの」

 奈々子は一人ニコニコして奥さんの身体に抱き付いて言った。

「やくそくまもってくれてありがとう」

「奈々子・・・」

 どうやら奈々子が言っていた“お姉ちゃんになる”ことは、二人は知らなかったらしい。門脇君の表情を見るに、そう違いない。

「赤ちゃん、ここにいるの?」

「いるよ。このまえのあかちゃんはばいばいしちゃったけど、いまはここにいるよ」

「本当に?」

「うん。ばいばいするときにやくそくしたの。またきてねって」

「そう、なの」

 つぅ、と突然流れた奥さんの涙に奈々子は驚きながら「いたいの?」と訊く。

「痛くない。嬉しいの」

 その光景に戸惑いと嬉しさと、感動が入り混じった気持ちが広がる。こんなこと、本当にあるんだ。

「おめでとう、門脇君」

「ふぁ」

 ふぁ? と顔を覗き込むと、門脇君は棒立ちのまま奥さん以上に滝のように涙を流していた。

「ふぁりがとうございましゅぅぅ」

 そうだよな、嬉しいよな。家族が増えるって良いよな。

「やったな、門脇君」

 今日はなんて良い日なんだろう!

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