第18話業火

日頃から沸点が低く、事あるごとに家臣らをおびやかした当方である。


今回、この童の態度が、取り立ててかんさわったわけでは無い。


しかしながら、そういった表向きとは裏腹に、光背こうはいが“ボッボッ”と音を立てて、反射鏡よろしく霊威を集束させた。


これを体内炉心に直結し、瞬間的な火力を用立てる腹積もりだ。


そういった当方の気炎を悟ったか、にわかに流し目をくれた童が、も言われぬ表情で快笑した。


続けて「おう! 行ったれ!!」と吼えながら、急いで身を退ける。


おおよそ当方に行く手をゆずる形であるが、まったく狡猾こうかつと言うか、情理がない。


「あれはお前の妹だろ? そんなんでお前、よくも兄貴を名乗れるな?」と言葉を尽くしたところ、童はこれ見よがしに顔をしかめてみせた。


「一応は妹ってだけの話。 あれが内の肉親だとか、血縁だとか、そんなたるいこと考える頭なんぞえよ」との事だった。


なるほど、人それぞれに独自の人生行路があり、物思うところも種々様々という訳だ。


もとい、俺の見立てでは、この童は人間ひとではない。


ややこしい憑物つきものの類か、あるいはこけむした“あやかし”か。


ともあれ、狐狸こりの妄言に付き合ってやるのは業腹ごうはらでこそあるが、当方にとっても、目先の二人ににんは敵である。


そうなれば一撃必倒、なさけ容赦のしを勘定に入れず、初手から全開でこれを打倒する。


「………………」


当方のめくばせを得て、女と姫君、二名の頭上に、空間を断ち裂く横線おうせんが生じた。


それは見る間に開口を果たし、まさしく赤い舌を吐き出す大口のような異容で、超高温の溶融体をドロドロと垂れ流した。


これをまともこうむった結果、二名がどうなったのかは定かでない。


間際に塗炭とたんの苦しみを味わったか、少なくとも後世に恥じるような跡形は残っていまい。

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