においが安心する理由

私はまだ、いいにおいの人間に出会ったことがない。過剰であったり、その人のイメージにそぐわなかったり、何か違うのである。何故か?よくわからない。


しかし、いいにおいの人間に出会ったことはないが、気になるにおい、お気に入りのにおい、思い出のにおいは数々ある。においは、思い出とリンクしていて、そのにおいをかぐと懐かしさがよみがえってくる。魔法みたいで面白い。


皆さんは、香水をつけるだろうか?私はほとんどつけない。しかし、いろんな香水の小さいサイズを買ってはコレクションしている。ボトルが好きだし、寝る前とかにその香水を少しつけてみて、自分の肌の上でどのように香りが変化していくのかという過程を楽しむのが好きなのだ。臭いものがほとんどだが、たまにいいにおいに出会える時がある。自分の肌の上でいいにおいに感じる香水に出会えた時、それは最高の喜びを感じる瞬間である。


小さい頃、母の化粧台の上や引き出しの中にある化粧品をあさり、奥様ごっことかしていたが、母の所有する香水はすべて臭かった。昔の香水とは、なんで全て同じようなにおいがして、全部臭いのだろうか?小さな瓶はすごくかわいいのに、中身は毒である。もちろん、そんな母が香水をつけたところなんか見たこともなかったので、そのコレクションはきっと、お土産でもらったりした物だったのだろう。


母はあまりおしゃれな人間ではなかったが、父はすごくおしゃれや身だしなみに気を使う人間だった。香りも一つのものに徹底していた。カネボウのエロイカである。どんなにおいかというと、私のお父さんのにおいである。いいにおいとは言い難いが、もう鼻になじみすぎていて、臭いのか、安心するのかよくわからないにおいである。私はそのエロイカのボトルが好きだった。見た目は黒だが、光にかざすと、濃い緑なのだ。私はこういう光にかざすと系が好きなのだ。光にかざすと濃い青、光にかざすと濃い紫。そんなのがすごくいい。しかし、父が死んでずいぶん経つので、どんなにおいなのか忘れてしまった。だがきっと誰かがつけていたら、お!このにおいは、ってなるんだろうと思う。


自分で生まれて初めていいにおいと思ったのは、中学生のころ田舎の私の街にも新しいビルができ、月に何度かお小遣いを握りしめショッピングに繰り出した時に発見した。老舗の百貨店にはない入りやすさと、品ぞろえの良さ、そして安さに中学生の私はうきうき心を躍らせた。小さなキラキラやピカピカ、わくわくがあふれていた。特別な時間だった。雑誌を隅々まで読んで、欲しいものをチェックし、お店に置いてあるか探した。


そのころのお気に入りの雑誌は、mc Siserというモデルさんがかわいい雑誌と、確かたまにnon-noを買ったり、知り合いのお姉さんにもらったりして読んでいた。その雑誌の中で特集されていた、イギリスのブランド、ボディショップ。シャンプーやボディソープがかわいいボトルに入っていて、なくなったら詰め替えてくれるという。そのボディショップが私の街にもやってきたのだ。もう、すごくワクワクしたのを覚えている。そこに着いたら、嗅げるにおいは全部嗅いだ。そして、一つだけすごく気になるにおいを発見したのだった。それはパフュームオイルのデューベリーだった。キリリと甘すぎないベリー系の香りにずきゅんと心奪われた私は、この香りだけは手放せないと思っていたが、廃盤になってしまったらしい。手持ちのボトルをちびちび使っています。お出かけするときの半分は、この香りだと思う。


そしてもう一つ長い付き合いの香りがある。高校生の頃、ある女の人が私にと贈ってくれた香りだ。その人が何でその香りを私に選んでくれたのか謎だが、その香りはすごくいい。ケンゾーのプールオムという香水で男性ものなんだが、なぜかすごく甘いにおいなのだ。この香りが別の人間からしたら、私は間違いなく付いていくだろう。そのにおいを小瓶から少し出して肌に着け、丸くなって寝る。それで幸せになれる。小瓶の中の液体が、残り僅かになってきたので、私は思い切って大きいサイズを買おうとモールの香水屋さんに行ってみた。そこで大きいサイズが安売りされていたので、買ってみたのだが、着けてびっくり、何故かにおいが違うのだ。私の持っていたのはもう17年ほども前のものである。その劣化して、成熟された香水と、まだ新しい香水は同じものだが、まあ違って当たり前だろう。少しショックだった。この新しい香水を成熟させるのに17年もかかるのか。


さて、私は香水は着けないが、普段のにおいにはこだわる派である。着けるにおいは統一させていないと心が休まらない。私のにおいは、バラのにおいだ。バラのにおいは好きだし、揃えやすい。バラの香りの石鹼で体を洗い、バラの香りのシャンプーは無いので、ハーバルエッセンスのネイキッドというラインのは、いいにおいなのでそれを妥協して使い、仕上げに、バラの香りのボディオイルを風呂上りに塗る。そして、化粧水はウイッチヘーゼルのバラのにおいのやつだ。ローズウォーターも常備している。これでたぶんバラのにおいのする人になれる。私はバラ園に行くと、一種類ずつバラのにおいを永遠に酸欠状態になるまでかいでいられる人間である。バラは父が好きだった花でもある。そんな感じで私はバラのにおいが大好きだ。


誰かが私を思い出すときに、においが関連してくれていたら、うれしいなと思う。だって、においは私が死んだ後でも存在するから。だから安心するのかもしれない。

皆さんは自分の香り、お気に入りの香り、思い出の香り、ありますか?

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