死にたいと消えたい

「あなたは、きっと小さなころから深刻なうつ状態に置かれていたでしょう?本当に今まで病院に行かなかったのですか?」

10年ほど前、三度の自殺未遂の末に病院に行った。そのとき担当してくれた精神科医のかけた言葉がこれだった。英語で受けるカウンセリングは、毎回担当医が違い、毎回同じことを繰り返し話し、薬を処方される。その薬の副作用に自殺願望の増加というのがあって、ある日私は走る車の中に飛び込んでしまいそうになる。それ以降薬と、意味のないカウンセリングをやめて、元の私に戻った。

人それぞれだと思う。薬が合う人もいれば、いいカウンセラーに出会える人もいる。根本的な問題は、お金だと思っていた。お金がないから、生活が苦しくて、死にたくなる。そうではなかったのかもしれない。

仕事を二つ掛け持ちして生活を支えてきた。連れにようやく安定した収入を望めるようになった。それでも周期的に死にたい病はやってくる。消えてしまえたら、存在自体がはじめからなければ、どこかに飛んで行ってしまいたい。そのことを考えると悲しくなって、自分の存在理由に不信感を覚え、自分は最低な人間で、害虫以下の存在で、今すぐ死んでしまえばいいと本気で思い込んでしまう。

些細なことが絶望的困難に感じられ、心の奥底では、人間はいつか死ぬんだから、その時が来るまで自分勝手に生きていけばいい、なんて思っているくせに、それさえ肯定できずにいる。

もしかしたら、これは現実じゃなくて、誰かが作り上げた虚構の世界で、そこに存在している私は、ただのフィクション。

人格を否定されるような出来事があった。じわじわと死にたくなった。そこには暗闇しかなくて、私は生きるためにそこで慣れない仕事をこなしてきた。最近ようやく頑張りが認められて、昇給した。でも、小さなミスを繰り返してしまい、改めて自分の無力さを痛感させられる。人の命を預かる仕事をしていた人間が、責任感がないとなじられ、人間が怖くてコミュニケーションをとることすら恐怖だった人間が、無駄話が多すぎると怒られ、ああ、ここは本当に自分には合っていない職場なんだと痛感する。

辞めてしまえばいい。周りの人間はそういう。私も、それが一番簡単で手っ取り早いことだと思う。でも、それをしたら、相手の思う壺だ、なんて思いもある。いわゆる、負けず嫌いなんだと思う。でも、成長しない。情けない。情けなくて、消えてしまいたい。

それが生きる事なんだよ、成長していくという事なんだよ。社会に出るってそういう事なんだよ、と言われてしまえば、何も返す言葉がない。では、社会に出ているすべての人間が毎日このように、ああ失敗してしまった、ダメな人間だな、死にたいな、と考えているのだろうか?そしたら、この世の中とても暗いものになっているはずだ。だけど、そうではない。普通の人間は、失敗したら、なんで失敗したのか考え、次それが起きた時、どうすればいいのか学習するはずだ。私には、その学習をする気力すらないのかもしれない。落ちこぼれだ。最悪の社員だ。そんな人間必要ないのに、雇ってもらっている。なんて恥ずかしい人間だ。

私は、書くのが好きな人間なので、自分が悩んだとき、とりあえず書いてみる。そしたら、問題が何なのか見つかることがある。頭の中で考えていたら、同じことばかりを考えてしまい、先に進まなくなる。しかし、文章にして、自分で読んでみると、問題を見つけることができる。

昨日から仕事に行きたくなかったし、眠れないからとりあえず書いてみた。書くことは、私のセラピーで、いいカウンセラーだと思っている。

今日は消えなくて済んだので、頑張って仕事に行く。そして、もし今日もまたダメだったら、それは、その時に考える。

死にたいとか、消えたいとか周りの人間にこぼしているうちは、まだ安全地帯にいる証拠だと思う。本当に消えたい人間は、いつか本当にいなくなってしまう。何の前触れもなく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る