家出のすすめ
映画『ガーデンズ・オブ・ザ・ナイト』をずいぶん前に観たのだが、ざっと説明すると、小さい頃誘拐された女の子が、これまた同じ人間に誘拐された男の子と育って、虐待を受けつつも殺されず十代になった頃解放されるが、家に戻ってもそこには自分の居場所がなく、またストリートに戻っていくというお話なんだけれど、都会のロサンジェルスにはそんなストリートに暮らす若い人間がわんさかいる。二十四時間営業のファーストフードチェーンのトイレで身だしなみを整えて、フリーウェイ近くの路上で睡眠をとり、仲間同士で集まって、うわべっつらだけの親しみで薬物を摂取したり、アルコールを回し飲みする。その多くの若者は決まって精神に障害があったり、幼いころ虐待を受けていたりする。同じ境遇の仲間たちが集まれば、居心地はいいのだろう。しかし、少しでもその仲間が幸せになろうものなら争い事が起きるのだ。
恐ろしい負の連鎖が、この世には存在する。母親が十代で、アル中、薬中。子供の面倒を見切れず、施設にとられる、若しくは身内に面倒を見てもらう。身内の人間も似たり寄ったりの人間ばかりで、まともに子育ては出来ず、そこでも虐待を受ける子供は多い。フォスターホームという里親も名ばかりで、お金がもらえるから子供を引き取ってお世話している、という家庭も多い。そんな家庭で育った子供たちは、人生の割かし早い段階で、やはり薬物やアルコールに染まっていき、性的にも早熟で、十代のうちに母親、父親になってしまう。
私の連れのいとこがダメな母親で、私はそのいとこが育てていた全部父親の違う子供たちが大きくなっていく過程を断続的に見ていたのだが、何もできなかった自分に腹が立つと同時に、やはりアメリカ、他人が入り込む隙はあっても、何もできないことが事実のような気がして、変なシステムだけひらひらさせて、まったく特殊な国だなあと思う。
子供たちに出会ったのは、14年ほど前、私が連れにあってまだ間もないころだった。長男が5歳、次男が4歳、三男が3歳。長男は白人で、あとの二人は黒人とのミックスだった。そしてその三人の父親でない男性と結婚したての連れのいとこ。そのときは、深く付き合いがなかったせいかまともに見えた。
その後まもなく、長女が生まれて幸せだったんだが、夫が仕事をしなくなり喧嘩が絶えなくなり、喧嘩のたびに警察がやってくる。そのうち、金に困った夫が窃盗で刑務所行きに。その間、離婚もせずに新しい男と関係を持ってしまう連れのいとこ。それを4人の子供たちはどのような心境で見守っていたのだろうか?私は、近くに住んでいたんだけど、出来ることと言ったら話を聞いてあげたり、遊びに連れて行ってあげることだけ。それもそのうちに連れのいとこの、恐怖心やパラノイアで阻止されてしまう。彼女は周りのすべての人間をコントロールしたがった。嘘を嘘で固めて、本人でさえ何が嘘で何が真実かわからなくなる始末。友達に、簡単に見破れるうそをついて、呆れさせて、何人も去って行ってしまい、しまいに残ったのは家族だけ。その家族にも噓を吐き通し、利用し、私も彼女が最後見せた涙が本物じゃないのではないか、なんて疑ってしまった。
彼女の言い分は、小さいころ虐待されて、だれも気付いてくれなくて、一人っ子だったから、協力し合える兄弟もいなくて、寂しかった。家出したら閉じ込められたから、実の母親と、その彼氏からレイプされたと警察に言って、今度は本当に家を出た。その間実の母親とその彼氏は警察で本当に大変な目にあったそうだ。家を出た後は、子供が次々にでき、たまに実母に預けたりしながらうまくやっていってた。
長男は、頭のいい子が選ばれるギフテッドに選ばれていたのに、高校をドロップアウト。今二人の子持ちだ。もうすぐ二十歳。次男は、早い段階からギャングの道にそれてしまい、顔にタトゥーを入れている。私は知っている、彼が一番傷つきやすく、優しいということを。すぐ泣いていた子供の頃の彼が、すごく悲しそうな顔で大きくなっていくのを、何もできずに見ていた。刑務所を出たり入ったり。
そして、私のことをすごく慕ってくれていた三男。彼は多動症という事で、人生の早い段階から薬漬けにされていた。彼はすごく聡明で、環境が良ければきっとすごい方向へ行けたんじゃないかなんて思う。ゲイの彼は母親に捨てられた。住むところがなく、ずいぶん年上の男の人と暮らしていたようで、その後ホームレスになったりして、私は電話番号とか渡していたんだけど、電話を持っていないみたいで、なかなか連絡がつかなかった。たまたま入ったスーパーで、彼に鉢合わせしたときは、うれしさのあまり言葉が出なかった。ずいぶん成長して、背が伸びていた。着る服もなかなかおしゃれで、いいじゃんかって思った。彼は今好きな人とアパートを借りて暮らしているそうだ。まだ生活は楽ではないみたいだけれど、あんなに小さかった子供たちが、自分の力で何とかやっていっているのを見るのは、ちょっと嬉しい。そして、何もできない自分が恨めしくもあるし、だからと言って、中途半端な手の差し伸べ方はしたくもない。
今年12歳になる長女の行方はよくわからない。母親と一緒に違う州に行っていると聞いたが、それも本当だかわからない。負の連鎖は、いつまでも続く。たとえ周りにいい人間がいたとしても、変なシステムのおかげで、いい人間が変態呼ばわりされる事だってあり得る、変な国アメリカ。
たとえ家族であっても、切り捨てるときは、潔く切り捨てたらよい時もある。そんなことを考えさせられる出来事。家出は成功への近道の一種なのかもしれない。
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