盗み飲みの犯人は

 出来上がって樽に貯蔵されている酒が減っていたら、それは神様が飲んだ証。

 杜氏が目指すは、神をも酔わす極上の酒。


 昔から酒造りが盛んなこの村に生まれた者なら、子供でも知っている言葉だ。かつて村一番の杜氏の酒を神様が盗み飲みしたことがある、という言い伝えも。

 一人前の杜氏になった今、盗み飲みしたのは村人だろうと思っていたが――。

 半分ほどに減った樽の傍でいびきをかいて寝ているのは、見知らぬ青年だった。状況から、彼が盗み飲みしたのだろう。

 いつになくいい出来の酒だったのに。その上、酔い潰れて寝るとはふてぶてしい。

 怒りにまかせて叩き起こすと、

「いい酒じゃった」

 にんまりと笑い、青年の姿は煙のように消えた。


※296字

※毎月300字小説企画参加作品、第15回お題「酔」

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