この手は離せない

 空高く飛ぶ鳥を、彼女はしょっちゅう見上げていた。遠くへ旅立つ渡り鳥を見る目は殊更熱心だった。

「……遠くへ行っちゃだめって、ミィスのお母さんも言ってるでしょ」

 ミィスの手をしっかり握って、ようやく視線が自分に向く。

「分かってるよ」

 笑って言うけど、分かっていない。

 彼女の曾おじいさんもおじいさんもお父さんも、曾おばあさんもおばあさんも、おじさんもおばさんもお兄さんもお姉さんも、みんなみんな、行ってしまった。

 行かなかったミィスのお母さんだけが一族の変わり者なのだ。

 旅する魔術師。それがミィスに流れる血だ。


「知らない世界を見てみたいんだ」

 嘘つきなミィス。

 でも、一人じゃ行かせない。一度握った手を離しはしない。


※300字

※Twitter300字SS参加作品、第90回お題「流れる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る