まがいの花

 師匠は魔法で生きものを本物そっくりに具現化できる。滅びた動植物や空想の生きるものまで、何でも。

 師匠が手漉きした紙に師匠が調合したインクで、複雑な呪文と図形を繋げていく。

この日生み出したのは、遠い東国で春に咲くという花だった。木に咲くので、室内で具現化するべきではなかったと師匠は苦笑していた。

 花自体は小さく、花弁が舞い落ちる。しかし捕まえた花弁は紙の切れ端だ。

 師匠の技術なら落ちた花弁も再現できるはずなのに。

「本物であってはいけないんですよ」

「こんなに綺麗なのに、もったいない」

「本物であっていいのはその気持ちだけ。忘れないようになさい、小さな魔法使い」

 師匠に撫でられた頭から、紙切れが何枚も落ちた。


※300字

※Twitter300字SS参加作品、第85回お題「紙」

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