育ったものの名は「 」

 私をのぞき込んだ時、彼は目映い太陽を背に負っていて、その表情はよく分からなかった。分かったとしても、何も感じなかっただろう。その時の私は、捨てられたボロボロの人形だったから。

 そんな私に、彼は一つずつ、感情を与えてくれた。

 誰かを助けようという気持ち。

 他者に優しくすること。

 大勢の人を思いやる素晴らしさ。

 与えられたものは綿の中に染み渡る。薄汚れていまだ温もりのない体の中で、何かが育まれていくのを感じる。


 奇跡を願う気持ちも、彼が与えてくれたものの一つだ。

 今の彼は、怒りもせず泣きもせず笑いもしない。そんな有り様が心配だった。

 彼のために何かをしたい。だからどうか、腕よ、足よ、わずかでもいいから動いてくれ。


※300字

※Twitter300字SS参加作品、第84回お題「捨てる/棄てる」

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