51~60

匙は投げられた

 師匠に一服盛られた。

 おそらく、たぶん、きっと、いや、絶対に。

 師匠は薬草に詳しい魔女だ。外見は妙齢の娘だが、実年齢は誰も知らない。尋ねた者は恐ろしい毒を盛られるという。

 無理言って弟子入りした俺が、その噂を知らないはずがない。故に、毒を盛られる理由はない。

 だが、師匠の声を聞くだけで胸が高鳴り、気が付けば探している。師匠とあんなことやこんなことをしてみたいと妄想し、ドキのムネムネが止まらない。

 媚薬は売れ筋なので、師匠は毎日のように調合している。俺のお茶に混ぜるなど造作もない!

 解毒剤をと頼む俺に、必要ないと師匠は笑う。

「薬のせいじゃないからね」

 その顔を見ると、このときめきが嘘か真か、どうでもよくなる。



※300字

※Twitter300字SS参加作品。第50回お題「薬」

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