灯台守の話

 岬の端からやっと見える小さな島。舟がなければたどり着けないそこに灯台がある。

「あそこには誰がいるの?」

 尋ねたわたしの頭を、父は撫でるだけ。

 灯台の明かりは船乗りの大切な導き手。けれど誰がそれを担っているのか、大人は口を閉ざしていた。

「知らなくていいのさ」

 答えた父の言葉に納得できないまま、十年後、真実を知った。

 ほんの少しのすれ違いの末、友を刺殺した男が島流しになった。

 流された先はあの小さな島の灯台。

「おまえは決して近づくな」

 食料を携え、父は舟に乗って島を目指す。今あの島にいるのは、わたしの元・夫。

 島の灯台守は死ぬまでその務めを果たさねばならない。

 わたしは毎夜、岬の突端からその明かりを見つめている。


(300字)

※Twitter300SS参加作品。第49回お題「灯す」

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