中盤戦

 午前12時50分、各会場の予選結果が出揃った。

しかし――唯一結果が出ていないのは、比叡(ひえい)アスカとゴーストデータであるウォースパイトのレースが行われる事になった、あの会場のみである。

【上位ランカーの方は予想出来ていたが、まさかの展開だったな】

【木曾、日向、アイオワは予想出来ていたが――長門の方が来るとは】

【天津風もリザーバー枠だ。他の結果待ちで状況が変化する】

【それよりも、リベッチオとヴェールヌイの会場は――失格者続出と言う事になったようだ】

【参加者中6人が失格処分、その内の4人が例の不正アプリか】

【残り2人もチェックを通過する為の旧式チップを使っていたとは――】

【いまどき旧式チップが効果があったとは思えない】

 上位戦の方には若干の波乱があった。何と、長門(ながと)クリスが決勝に残ったというのだ。

ブロック決勝に残った4名は、午後から行われるレースで2名に絞られる。それは他の会場も同じなのだが――。

【2名しか残っていないブロックがある以上、これはどうするべきなのか?】

【別の会場の方も島風とビスマルクで確定らしい。どうやら、あちらは別のアクシデントがあったらしいが】

 竹ノ塚の会場では12位のプレイヤーも勝利したのだが、こちらはチートガジェットではなくシステムのエラーでレース続行が不能になっていた。

ゲームのプレイに支障をきたすクラスのシステムエラーに関しては、レース中には発生はずがないのに――。

しかし、起こってしまった物は仕方がない。該当プレイヤーが棄権と言う扱いとなり、最終的には島風朱音(しまかぜ・あかね)とビスマルクが勝ち残ると言う事になった。

これに関しては周囲も納得がいかない結果なのだが、それでも一部プレイヤーによるチートガジェットや妨害行為が原因で結果の取り消しもあり得たのである。

盛り上がってきた流れに水を差す訳には――と思っての対応が、まさかの後手に回ることだってあると言う証拠なのかもしれない。

「一部のプレイヤーが起こした迷惑行為でレースその物が中止になるのは――」

 本来ならば勝ち残るはずだった男性プレイヤーは、今回の件に関して結果の取り消しをしないで欲しいと運営に頼み込む。

「確かに――あの原因を作ったのは、一部のチートプレイヤーに責任がある。その1プレイだけでレースその物をなかった事にするのは、こちらとしても本望ではない」

 ビスマルクの方は無条件でトーナメントに進めるのだが――運営側のレースその物を取り消し、くじ引きでビスマルクと島風がトーナメントに進出と言う事で書類を通そうとしたらしい。

それで通したとしても根本的な解決にはならない為、アクシデントの一件は運営に伝えるべきだとも言及した。

「分かりました。運営側には、そう伝えておきます」

 最終的にスタッフの方もビスマルクの話を理解し、アクシデントの一件を伝える事にした。

これによって、ネット上がちょっとした炎上騒ぎになるのでは――と一部では懸念されているが、そこまでは発展しないようである。



 午後1時、会場の移動を指示されたのは島風とビスマルクだった。

向かう場所は谷塚駅近辺のアンテナショップと言う事で、リベッチオとヴェールヌイが向かっている場所でもある。

本来であれば、比叡及びローマも移動指示が入るのだが――こちらはレース中でもあった。

一足先にローマは会場移動をするべき気配もしたが、あえてレースを見届ける事に――。

【フリースターズ】

 楽曲に関しては、敢えての指定楽曲である。

本来であれば楽曲は運営による指定なのだが、こちらに限っては比叡の要望もある為に楽曲は比叡の指定した楽曲になる。

何故に比叡がこの楽曲を指定したのかは分からないのだが――。

【この楽曲は、どのカテゴリーだ?】

【ヴォーカル曲ではないような気がする】

【会場が盛り上がっているから、メジャー曲のように思えるが】

【違うな。逆に超有名アイドルの楽曲ではないと言う事に対する反応かもしれない】

【マイナー楽曲と言う訳ではないようだが、CD流通?】

【CDランキングや音楽番組では見かけない。パワードミュージック時代からのオリジナル曲か?】

【オリジナル曲と言われれば、そうかもしれないが――どちらかと言うと、移植曲だな】

 ネット上では楽曲の発表があってから、まさかの盛り上がりを会場で見せていた。

しかし、この盛り上がりに関してネットでは判断しづらいという流れの様である。

「まさか、この楽曲を選択するとは――」

 コンビニ前で休憩をしている明石零(あかし・ぜろ)は、ARスーツも解除して昼食を取っていた。

お昼と言っても、簡単な物なのでチョココロネ等の菓子パンとサイダーなのだが。

「これは別の意味でも宿命と言うべきなのか、あるいは――」

 明石はこの楽曲については聞き覚えがあった。

実機では聞いた事がないのだが、アカシックレコードには該当する動画が公開されている為――そこから聞く事は可能である。

実は、この楽曲はとあるフリーゲームが由来となっている楽曲なのだが、その詳細はアカシックレコードで事情を知った者でも、あまり話したがらない。

その事情が、まるでネタバレの正体なのでは――と疑われるほどにはネット上でも疑問視されている。

しかし、一連の事件に関係したネタバレの正体が判明した今では、それを疑う事はないだろう。

後に、この楽曲は複数のリズムゲームに収録され、それはパワードミュージックも例外ではなかった。

この楽曲を作曲した人物は、現在では複数のリズムゲームでオリジナル楽曲を提供するまでになっている程の知名度を持つ。

「WEB小説の投稿者が、商業小説でデビューするのと同じ事――それをリズムゲームで実現させるまでになったのが、あのフリーゲームとは」

 明石は色々と思い出を語るかのような表情で比叡のレースをタブレット端末で観戦する。

そして、明石はこの楽曲が選ばれたのも何かの運命を感じる――と思い始めた。



 比叡とウォースパイトのレースは、別の意味では出来レースなどとも言われそうな気配がする。

しかし、比叡の動きはそれを感じさせない――華麗なリズムを奏でていた。

それを見た周囲の観客からは手拍子が鳴り響くほどである。まるで、フィギュアスケートを思わせるような気配だ。

ウォースパイトの動きは、比叡のソレと同じというか互角に近い。

比叡自身のゴーストデータを使用しているので、それは当然と言われれば当然である。

「これが、比叡アスカの成長と言う事か――」

 トップランカーと言われる程の実力を持つ、木曾(きそ)アスナもセンターモニターでレースの観戦をしていた。

そして、彼女の動きを見たことで飛躍的とまではいかないが、確実に成長している事を感じ取っている。

ゴーストのデータは過去のデータにすぎない。それを上回る程の技術を――彼女は短期間で習得していたのだ。

その成長速度はARゲームから見ればリアルチートと言う風に言われるかもしれないが、彼女はリズムゲームのプレイ経験もある。

別のゲームをプレイした事があるのならば――ARゲームだけをプレイするプレイヤーよりも、若干の揺らぎや差が出るのは当然なのかもしれない。

「このレースを出来レースや八百長と言う言葉で片付けるような勢力こそ、反ARゲーム勢力やスピーチ勢力と――」

 木曾は、あえて特定の単語を出せばSNSで炎上すると思い、途中で言葉を止める。

しかし、これだけの物を見せつけるような実力者がネット上でチートと叩かれる事自体、ネット上を荒らそうと言う炎上勢力と同類かもしれない。

「結果がどうあれ、このレースは一部勢力の便乗宣伝に悪用される可能性が――否定できないか」

 ガーディアンの人物と思われる軍服姿の男性が、比叡のレースを見定めてつぶやく。

彼は比叡が失敗した場合には『超有名アイドルの楽曲が日本で唯一無二の神曲』とプロパガンダに利用し、逆に成功した場合には――。


 今回の比叡とウォースパイトのレースは、中継終了後に早速動画がアップされた。

そのプレイを見た者は、あまりの衝撃に言葉を失ったと言う――。

比叡(ひえい)アスカの成長だけでは語れない程の進歩、それがこのレースに集約されていた。

さすがに決勝レースとは違う為、このレースはエキシビションに近いのかもしれない。

【これが、プレイし始めて間もない様なプレイヤーなのか?】

【信じがたい。これが――上級者なのか?】

【これが神プレイか?】

【実況者のような人気取りの為だけのプレイよりも、伝えたい物を感じる】

【一体、何を訴えようとしているのか――】

 つぶやきのタイムラインは相変わらずであり、比叡の目的を理解しようとはしない。

おそらく、一連のガイドライン変更に関する部分で大きく関与した事、ネット炎上の一件など――あまりいい印象を抱かないのだろう。

「反ARゲーム団体も沈黙するとは――一体、このレースには何があるのか」

 運営の男性スタッフは、ネット上のつぶやき等を警戒する作業をしていた。

その中で動画がアップされたというつぶやきを見て、該当する動画を見ていたのだが――。

「これは――」

 その男性スタッフは、比叡のプレイに魅了されたと言ってもいい。

それ以外にも比叡のプレイを絶賛するような人物もいたが、そうした人物は大抵がネット炎上勢力やタダ乗り宣伝勢力と言われてしまう。

単純に『凄い』や『かっこいい』と言った一言では、ネット炎上勢力や悪目立ち勢力と勘違いされる状態になっていた。

しかし、ゲーム未プレイ勢力等にとっては――便乗宣伝に、これほどの素材はないと考えている。

「あのプレイから普通に感動しただけでは――繰り返しになるだろうな」

 ガーディアンの一人がつぶやく。彼は一連のネット炎上の原因を突き止めるべきと運営に直訴していた事もあったが、却下されてしまう。

そういった草の根活動もガーディアン勢力には存在する。しかし、それが運営にどのように感じ取られるかは、熱意や伝えたいメッセージにもよるだろうか。



 午後1時15分、比叡は既に指定された場所へと移動をしている。ちなみに、ローマとは別行動だ。

比叡がARバイザーではなく、ARガジェットで情報を調べている中で――。

「やっぱり――そう言う流れになるのか」

 比叡は新交通での移動中にフジョシ勢等が悪目立ちをする為の行動を起こしている事を知った。

理由は様々で、どの作品の事を指すのかもバラバラだろう。推しのカップリングを巡ってのネット炎上なのは容易に分かる。

しかし、これらの行動は数分後にあっという間に沈黙をしていた。何故、あっという間だったのか?

アカシックレコードの様な物やご都合主義的なメタ、更にはデウス・エクス・マキナの様な存在――色々と考えられるかもしれない。

これに関しては、比叡も気にしたら負けと判断して――今は決勝レースに集中する事にした。

「飛龍丸が行動を起こしているのか、それとも――?」

 飛龍丸(ひりゅうまる)の一件を知っていた比叡は、今回の行動も飛龍丸のものと考えていた。

しかし、ニュースサイトの記事によるとメイド服型のアーマーではあるのだがカラーリングは飛龍丸のソレとは異なるらしい。

このカラーリングが、更に別の人物なのか――単なるコスプレイヤーなのか? 便乗勢力としては、アーマーが手抜きではなく本格的だ。

ニュースは流しでチェックしているだけであり、今は別の楽曲を聞いて集中力を上げている所である。

「今は――自分に出来る事をするだけか」

 彼女の聞いている楽曲はクラシックアレンジと言える物だが、周囲に音漏れはしない。

これもARゲームのシステムを利用した音楽プレイヤーであり、電車やバスの中でも重宝する。

このガジェットはARバイザーに標準装備されているのだが、そこまで細かいシステムをARゲームをプレイする際には把握しない。

それが――ARゲームにおけるトラブルの最大の原因かもしれないだろう。



 この件に関してはネット上のスレで有名になっていた。

《一部のアフィリエイトまとめサイトが閉鎖されている件について》

 内容は、パワードミュージック時代にもネット炎上を仕掛けていたアフィリエイトまとめサイトが次々と閉鎖された事についてである。

スレのまとめによると、閉鎖に追い込まれている件自体は超有名アイドルの芸能事務所が強制調査を受け、関係する政治家団体等に飛び火した段階でも動きがあった。

しかし、今回のサイト閉鎖に関する部分は別の理由が存在していた。

【あの飛龍丸が本格的に動いた辺り――厳密に言えば、パワードミュージックがバージョンアップした辺りから動きが変化した】

【リズムゲームプラスパルクールに名称を変えた辺りか。確かに、そこからガーディアンも強化された話を聞く】

【しかし、以前のARゲームのガイドラインの方が厳しいはず。何故、改訂されてからの方が厳しく感じるのか?】

【確かに改訂前は魔女狩りのようなガーディアン勢力――と言うよりも、ガーディアンの皮を被った過激派が存在していた】

【あの過激派は政治家団体とも手を組み、都合よく超有名アイドルコンテンツを間引きしていたという話もある】

【つまり――ARゲーム側が認めない勢力はガーディアンと名乗れなくなったのか】

【これによって、いわゆるなりすましや悪質なタダ乗り、アイドルグループの宣伝に悪用、アフィサイトの増殖も防止しているという話だ】

 要点をまとめれば、ガーディアンの中にもなりすましが存在し、そうした悪質な勢力にもガーディアンの名前を使わせないようにした、と言う事らしい。

要するにガーディアン活動の為にはARゲームプレイヤーでなければならない――と言うルールを追加したのである。

中にはARゲームの商標権を不正取得し、こうした動きをけん制しようとした勢力もいたが、別件で逮捕される事になり――彼らの行動は阻止されたらしい。

しかし、本当に阻止されたのかは疑わしい部分もあるのだが――更なる炎上を繰り返している訳ではないので、一応は阻止されていると実感できるのだろう。



 そうした事情があり、ガーディアンの顔ぶれが変化する事になったと言う。

かつてのガーディアンが改めてARゲームに参加する事でガーディアン活動を行っているのも、その一つである。

それだけではなく、蒼龍丸(そうりゅうまる)や天津風(あまつかぜ)いのりという新規勢力を生み出す事にも貢献した。

天津風に関しては以前からも行動をしていたのだが、あくまでもガーディアンとしての行動ではない。

そうした事もあり、一部からはARゲーム過激派とも指摘されていたのだ。命名をしたのは、アイドル投資家なのは火を見るよりも明らかだが。

「比叡には、感謝をすべきなのか――?」

 ARメットを既に被り、予選会場を後にしようとしていた天津風は、ARメットに表示されたインフォメーションメッセージに驚く。

《谷塚駅付近のアンテナショップ○○支店へ向かってください》

 予選には敗退し、敗者復活のルールも存在しないランカー決定戦。

天津風はメッセージの表示された理由が分からずじまいだった。敗者復活戦であれば、用件も表示されるだけに謎が多い。

一応マップも表示された為、そこへ向かう事にはする。一体、何が待っているのかは別として――。

「一体、何が待っているのか――」

 天津風は疑問には思う中で、マップに表示されたポイントへと向かう為の準備をする。

別のアンテナショップで移動手段を借りると言う手もあるのだが――それだと目立つのは明白だろう。



 午後1時30分、トーナメントAの準決勝が行われる流れとなった。

ただし、あまりにも順位を付けがたいような結果だった事に加え――リザーバー枠だった天津風(あまつかぜ)いのりもリザーバーを辞退するという展開になっている。

その為か、準決勝と言う割には事実上の決勝戦に近い対戦が組まれる事になった。

【まさかの組み合わせになった】

【リザーバーが棄権したという事に加え、一連のチートアプリの件もある。有効スコアを出せたメンバーを絞った結果だろうな】

【この組み合わせだと、準決勝と言うのがもったいない気配もしないでもない】

【木曾、日向、アイオワ、長門か――】

【合流と言うのはどうなっている?】

【このステージでは、自動勝ち抜けに近い島風とビスマルク――そう言う事だろう】

【あの4人の中から勝ち残った2名が、島風とビスマルクと戦うと言う事か】

【そう言えば、トーナメントBはどうなるのか】

【リベッチオ、ヴェールヌイは確定として――今、結果が来たようだ】

【やはりというか、ローマと比叡らしい】

 ネット上では、そのトーナメントを見てさまざまな予想を立てたり、分析をするプレイヤーも多い。

一部では、これを利用して違法ギャンブルを開こうとしていた人物もいたようだが、あっさりと摘発される事になる。

何故に天津風が辞退したのかは理由が不明であり――その詳細はネット上に掲載されていない。

下手に探ろうとすれば、炎上するような案件と言う可能性もあって言及しないのか、それとも別の理由があるのか?



 同刻、竹ノ塚駅と谷塚駅の中間にある公園、そこでは何やら集会が開かれているようでもあった。

場所が足立区にある為か、ミュージックプラスパルクールの運営や埼玉県内のガーディアンでは手が出せないだけでなく、向こうの事情がある。

俗に言う芸能事務所が指定した特区なのかもしれないが――芸能事務所が特区指定を取れるのだろうか?

「埼玉県では、超有名アイドルのライブ活動等が不可能になった事は知ってのとおりだろう」

 公園のベンチに座っている男性、彼はアイドルの法被を着ている訳でもサイリウムを持っている訳でもない。

彼は拡声器等は一切使わず、超有名アイドルコンテンツの未来を訴えているのだ。

こうした活動を埼玉県では超有名アイドル投資家の勧誘などと判定し、魔女狩りの様に検挙していたのは過去の話だが――紆余曲折があって足立区で活動をしている。

足立区の中には超有名アイドルの芸能事務所があり、こうした事情で迷惑にならない程度であれば活動は認められていた。

超法規的処置ともネット上では言われているが、そう言う風に決めつけているのはガーディアンだけなので無視をしているのが現状かもしれない。

「彼らは、純粋なファンでさえも投資家の勧誘や投資詐欺、ネット上の裏掲示板で書かれているようなバイトと同類とみている」

「こうした活動こそ、日本政府のクールジャパン活動に重要なのか――それは違う!」

「今となってはSNSが主戦場に変わり、様々なアイドルが活動するアイドル戦国時代に突入している」

「だからこそ、全てのアイドルが共闘する必要性があるのだ! 倒すべきは――」

 何かを発言しようとした男性は、突如として倒れる。背中には血の付いたナイフが刺さっている訳ではない。

血の付いている刃物の場合、明らかに暗殺だったり殺人事件、テロリストの仕業等で調査されるだろう。

そうした形跡が確認出来ない為に調査は出来ない状態だが、背中には無数の切り刻まれた傷跡が確認出来た。

一体、これが何を意味するのか? 本当に彼は何者かに襲撃されたのか?

「まさか――ARゲーム勢が物理で超有名アイドルファンを狩り始めたのか?」

 それを目撃した別の男性は、ここぞとばかりに超有名アイドルファンの結束でARゲームを禁止にしようと政府に働きかけようとする。

『なるほど――古典的なやらせだが、これをテレビ中継すれば視聴率が取れるだけでなく、意図的にARゲームを悪者にする事も容易になるか』

 唐突に姿を見せたのは、フルアーマー状態の天津風だった。

その装備はメイド服メインのアーマーとは違い、明らかにSFで見かけるような装備なのは間違いない。

以前のゲーマータイプのARガジェットではなく、木曾(きそ)アスナのようなマントを装備している。

ARメットで素顔が見えない仕様とメイド服型アーマーはそのままだが、マントを装備しただけで劇的に変わるとは周囲も思わないだろう。

「お前は、ARガーディアン?」

「足立区はARガーディアンでも別の支部の管轄のはず! 埼玉県を管轄の――」

 他のメンバーが何かをしゃべろうとした途端、秋葉原所属のARガーディアンが姿を見せたのである。

その外見はアキバと言う事でメイド服と言いたい所だが、魔法少女や戦隊ヒーローと言う個性あふれる外見で、天津風とは別の意味でも異色と言えるかもしれない。

彼らが駆けつけた理由は分からないが――密告者の可能性を集まっていたファンが懸念する。

「貴様たちの行っている事は、超有名アイドルファンの行動ではない。ただのネット炎上で自分の名声を上げようとする――ネット警察等と同じだ」

 アキバガーディアンの戦隊ヒーロー姿の人物がハンドガンを構え、違法ファンに投降を薦める。

ハンドガンの威力は超有名アイドルファンの方も分かっていた。おそらくは、ガーディアンの使用しているようなARガジェットと同じだろう。

「ネット警察の様な悪目立ち勢力と我々を間違えるとは――」

 一部のファンはガーディアンに抵抗をするのだが、結果の方は明白だったと言える。

そして、ゴスロリ服の大型チェーンソーを構えた女性は――それとは別の人物がタブレット端末で何かを投稿しているのを目撃した。

「テレビ番組の違法アップデートは――」

 タブレット端末を使ってアップロードしていたのは、超有名アイドルグループとは違うアイドルのテレビ番組であり――明らかな違法行為だった。

「コンテンツ流通の妨害をする行為を確認――排除せよ!」

 ハンドガンで威嚇をしていた人物も決定的な違法行為を確認し、攻撃許可を与える。

次に超有名アイドルファンが逃亡しようとしていたのを包囲したのも――チェーンソーの人物だった。

「違法アップデートは犯罪であり、悪しきコンテンツ流通を繰り返す元凶でもある――ごく一握りのアイドルグループだけを残す為、他の勢力に風評被害を与えるような勢力は――」

 テレビ番組の違法アップデートをしようとした別の人物も逃亡をしようとしていたのだが、彼もチェーンソーでバラバラにされる事となった。

早い話、ローマの時の二の舞である。あの時のネット神も偽者か便乗人物と言う可能性が高くなったのは、後の調査で明らかになった事であるが。

そして、最終的には他の人物も天津風が沈黙させるという結果になった。

「悪目立ちするような勢力が、ネット警察を名乗り、アフィリエイトまとめサイトを管理し、自分が日本を支配するかのような思想に走る――まるでWEB上の二次創作小説を思わせる」

 その後、天津風も姿を消したのだが――何処へ向かったのかは、分かっていない。

「それよりも、一部のマナーやモラルさえも持たないような人物が暴走した果てに――」

 他にも何かを考えているように見えた天津風だったが、今は多くを語るべきではないと判断した。

「コンテンツ流通を阻害するような人間には、未成年であっても実名報道で制裁を加える――そんな事を特定芸能事務所の超有名アイドルファンが拡散し、大混乱にした事もあったか」

 天津風はネット上のタイムラインを見ていて、そんな気持ちになっていた。ある種のテンションダウンと同義だ。

超有名アイドル商法、それは超有名アイドルがありとあらゆる権利を掌握し、莫大な使用料を払わないと使えないようにするという物であり、それこそ実在アイドルを題材にした二次創作や夢小説だけの存在だった。

しかし、それを第4の壁を破って現実の世界でも持ち込もうと言う一部勢力がいた。それこそ、超有名アイドルファンの過激派とも言える勢力である。

天津風は――こうしたアイドルファンの過激派を規制するような法案を実現化させようとも一時期考えていたのだ。



 トーナメントAとBの対戦カードが判明し、ネット上では予想合戦が始まる。

Aに関しては甲乙つけがたいような展開だが――Bに関しては、大体が予測できるという展開だった。

実際、ビスマルクとローマはネット上で知られていないような一部メンバー内でしか――対戦動画の存在を知らない。

その結果を知っている人物からすれば、トーナメントBはビスマルクと島風朱音(しまかぜ・あかね)が勝ち残ると思っているようだ。

「トーナメントAとBの勝者同士で決勝を行う流れだが、この様子だと――」

 ネット上の動向を見ていた男性スタッフの一人は、あるつぶやきに関して見逃していた。

これによってネットが再炎上するのではないか――とも言われるような致命的な見落としであり、一歩間違えると今までの努力が水の泡になりかねなかった。



 午後1時40分、天津風(あまつかぜ)いのりの一件がネット上で拡散している頃、大和朱音(やまと・あかね)は草加駅に到着し、バス移動でARゲーム運営本部へ向かおうとしていた。

「まさか――こんな事が起こると言うのか。やはり、こういう事態が起こる事は想定しておくべきだったか――ガイドラインを変えた段階で」

 大和が聖域を作る為に仕掛けたガイドライン、そこにはネット上でも一部で『ネット炎上狩り』や『魔女狩り』と言われる物となっていた。

当然だが、その詳細を全部把握した上で発言している物ではなく、大抵がネット上のまとめサイトで意図的に削られたガイドラインから発言している物ばかり。

実際、大和はこうした勢力に対して『ガイドラインを全て把握した上で、異論があるならば許可を出した運営に要望を出すべき』と言っている。

大和のこうした発言は至極当然の物であり、それを見落としてARゲームをプレイしているようでは――チートプレイヤーやネット炎上勢等が問題視されるのも納得だろう。

それに加えて、ARゲームで適用されるようなルールを別のコンテンツでも適用すべきと言う極論勢力の存在――そちらも考えるべき、と今更だが思った。

「ここまでの勢力が動き出すと分かっていて、運営が放置したと言うのか――」

 大和はバス停でバスの来るのを待っていたのだが、そのバスが来る数分前、ARフィールドが展開された事を把握した。



 ARフィールドが展開されると、ゲームに勝利するか敗北するかしなければ脱出不能となる。

それはジャンルによるところも大きいが、大和が展開されたフィールドはARアクションであり、勝利か敗北か――完全決着が求められる物だ。

「大和――貴様の行おうとしていた事、それは超有名アイドルコンテンツを完全締め出しする事――そうではないのか?」

 重装甲の鎧を装備したプレイヤーが複数人、姿を見せる。その装備を見る限りではチートと言う訳ではない。

仮にチートだとすれば、仕掛けたプレイヤーにペナルティが大きく影響するだろう。仕掛けられた場合だと話は別だが。

「そこまで知っている以上、あのガイドラインを全部見たという事か?」

 大和の方も臨戦態勢を整え、重装甲の戦艦大和型ガジェットを装着する。

その装着時間は、わずか10秒にも満たないだろう。ARインナーは装着済みの為、装着途中で裸になったりはしないが。

それに加えて、弾丸なども補給済みであり――挑むタイミングを間違えた可能性も相手側にはあるのだろう。

「お前がネット上の炎上等を独自研究し、それを100%起きないようなシステムを構築しようとしていた事も――それにアカシックレコードを使用した事も」

『そこも知っているとなると、アカシックレコードEを見たと言うのか?』

「Eに関しては知らないが、既にネット上で該当リンクが公開されている。そこから話を知った」

『アカシックレコードEのリンクは、公開もご法度だったはず――』

「草加市としては太陽光発電、交通整備システム、次世代ふるさと納税――そうしたフィクションの世界にあるような物を、タダ同然で手にした」

『それらは特許を取って独占すべきではない事も、知っているだろう。超有名アイドル投資家――』

「残念ながら、俺は投資家ではない」

 投資家だと否定した人物は、迂闊にもガトリングガンを大和に向ける。

その一方で、大和も両肩の主砲を目の前の人物に向けた。お互いに発射態勢であるのは言うまでもない。

『投資家でないとしたら、あのシステムを特許で独占する等――』

「そうだろうな。あれを簡単に例えれば――有名な魔法少女シリーズの設定みたいなものか」

 予想外とも言える例えに大和は、声を詰まらせる。しかも、その発言に反撃も出来ない。

「大手イラストサイトで同系統の二次オリが増え始め、更にはモラルハザードやネット炎上等が――」

 その人物はガトリングの引き金を引こうとしたが、その直前で何者かの攻撃を受けてガトリングガンは封じられた。

そして、その方向を振り向いた人物の目の前にいたのは――5階建て位のビルの屋上にいた3人の人物だった。

「そこにいるのは誰だ!」

 相手勢力の別の男性がビルの屋上にいる人物に対して叫ぶ。

そして、そちらに向けて発砲をしようとしたのだが――。

「止めろ! それは明らかなフラグ行動だ――」

 ガトリングを構えた人物が別の男性に対して忠告した事で、何とか引き金を引く寸前で止める事には成功した。

どうやら、向こうもお約束やフラグに関して研究してきたようである。



 ビルの屋上にいた人物、それは天津風、飛龍丸(ひりゅうまる)、明石零(あかし・ぜろ)の3人であった。

今回の明石はアイオワから受け取ったアガートラームの技術を使用したSF北欧神話チックなブラックアーマーを装備している。

「まさか、超有名アイドルプロデューサー本人が来るとは――自らの超有名アイドルがデウス・エクス・マキナを超える存在と認めさせるために」

 天津風が展開したのはシールドビットであり、飛龍丸も同様の攻撃を展開――どうやら、今回は使用する武装を変えている可能性もあった。

その攻撃に気を取られている隙に、明石はブラックアーマーのブースターを展開、何と5階建てのビルから飛び降り――。

「馬鹿な――そんな事をすれば、怪我では済まないはずだ!」

 プロデューサーはARアーマーの能力を完全把握していない。それが、彼の決定的な敗北フラグを確定させた。

周囲の人物が迂闊にも立てようとしたフラグを一度クラッシュしたのに――また戻してしまったのである。

「テンプレフラグは――破る為にある!」

 明石の放った拳の一撃は、プロデューサーを気絶させるほどの衝撃波を発生させた。

そして、ある意味でも全ての決着はついたのかもしれない。



 アイドルプロデューサーの逮捕は、午後2時ごろの番組で一斉に報道される事となった。

しかし、このニュースでARゲームが中止に追い込まれる可能性もあるのでは――とネット上では、炎上寸前の阿鼻叫喚な展開が起ころうとして――。

『何も起こりはしないよ。壮大に何も始まらない――全ては超有名アイドルファンが自分達の欲望や利益を優先して、コンテンツを炎上させた段階で』

 センターモニターに時限装置でも付いていたかのように流れだしたメッセージ動画、そこに映し出されていた人物は何とビスマルクだった。

『あのときにも言ったはず。今度は同じことの繰り返しにならないように――我々が正さないといけないのかもしれない――と』

 あの時のメッセージ動画、ARゲームについて語った動画でビスマルクは確かに言っていた。

それを、あの動画を見た人間は思い出していた――かつての警告動画を見た人物達は。

彼女は同じ事を繰り返さないように――その元凶を断ち切ろうと大博打を仕掛けていたのである。

『こちらとしては、その役目を比叡アスカが別の目的で行おうとしていたのも、正直言うと驚きだったが』

 ビスマルクの一言、それは比叡(ひえい)アスカが何かの目的でネットを炎上させた事――それにも触れていた。



 一連の事件は加速度的に解決していくだろうが、一度起こってしまった事を取り消す事は出来ない。

「ネット神を迂闊に名乗り、その結果として――更にコンテンツ流通のガイドラインを閉鎖的にする」

 草加市内にあるビルのエントランス、そこで一連の動画を一挙視聴していたのは覆面をした人物だった。

彼はドラゴンの覆面をした議員等とは違い、別の事情で覆面をしている。彼の声も――実際には機械的なノイズが混ざっているようにも聞こえた。

「宣伝行為としてネット神の名前を広めようとした結果、自分達が犯罪を起こしていると自覚しない――全く、何をやっているのか」

 彼の名はネット神なのだが、コードネームとしてヴィザールを名乗っている。これに関してはネット上の一部の人間しか知らない。

それこそ、ビスマルクやアイオワ辺りしか認識していない可能性も高いだろう。

「この私がこれ以上かかわるのも、事態を悪化させる可能性があるかもしれないか」

 ヴィザールは覆面に手を賭ける事もなく、動画の視聴が終わった後にエントランスを後にした。

一連の事件を起こしたのは『良かれと思って宣伝をした』事が『大きなネット炎上を呼び込んだ』事――そう彼は結論を急いでいた様子である。

ネット炎上のないようなゲーム環境、それを構築するのは神運営でも難しいのだろう。



 午後2時ごろに報道された超有名アイドルプロデューサーの逮捕。芸能事務所の衰退も、ここまで来たか――と言う展開である。

実は別のアカシックレコードには、このようなテンプレ小説が複数あったという話もあった。

その為か、この状況を見て何か分かった者もいたらしい。そこまで察する事が出来るのは、その炎上案件を目撃した事のある人物辺りの為に――。

結局はテンプレと言う名のレールを走る電車だったのか――そのレールを用意した人物が誰なのかは、今の段階では分からないだろう。

『一連の事件には、東京で行われる予定の国際スポーツ大会との関連も噂されていましたが――』

 テレビの司会男性らしき人物が、コメンテーターと思わしき人物に話題をふる。

その人物の外見は、明らかに異質としか言いようがないような人物だったのだ。

明らかに素顔を隠しているような覆面姿――経常的にはバイクのフルフェイスよりもSFアニメでよく見るノーマルスーツだろうか?

それに軍服と言う事で、あるアニメに登場していた人物を連想させるとネット上でも話題になっていた。

しかし、こうした鉄仮面のような人物はアニメでも多数存在し、どの作品がベースになったと断言するにはデザインが違いすぎて、特定できないだろう。

『そのスポーツ大会も、その他の要因が重なって辞退――ARゲームは無関係と聞いていますが』

『しかし、こうしてプロデューサーが事件を起こしたというのはARゲームに対する逆恨みがあっての事では?』

『逆恨みや個人的な感情――そう言った物で動いているのは、ごくわずかでしょう』

『ここ最近でなくても、個人の独占欲や欲望に忠実――と言えるような事件は起きております。ごくわずかというのはおかしいのでは?』

 司会の男性は、何かの合図をコメンテーターに見えないように指示をする。

どうやら、タブレット型のテロップに細工がしてあるようだ。コメンテーターは表情を読み取れないので、何をされているか分からないと考えての事か?

『確かに――過去に起きた殺人事件や凶悪犯罪の中には、感情のコントロールが出来ずに暴走した事例がありますが――それとARゲームを重ねるのは無粋でしょう』

 コメンテーターの方は、下手にボロを出さないように何とか自分なりの言葉でスルースキルを披露する。

これに対してネット上では色々な反応もあるのだが、それらにかまっている余裕も今の彼にはないだろう。

司会の人物も、彼とは別のコメンテーターにも話題を振り、何とか時間を稼いでいるというのが見え見えだった。

どうやら、仮面のコメンテーターを拘束するのが目的らしい。

「彼もまた便乗犯か――決めつけるのも早計かもしれないが」

 一連の番組を見ていたネット神ヴィザール、彼は自分に似たような外見の人物がテレビに出ていたとしても驚きは感じない。

過去にも自分のまねをして有名になろうとした人物が、逮捕された事例と言うのは数え切れないほどある。

それこそ、テレビ番組の違法アップロードに代表されるような――コンテンツ流通妨害とも言えるような事例で。



 15分経過、別のニュース等をはさむ形で鉄仮面のコメンテーターに、司会が先ほどの話の続きを振って来た。

『一連の炎上マーケティングに関しては政府も問題視をしております。それを踏まえれば、どのジャンルでも起こるでしょう』

 コメンテーターは、司会のいじわるとも言える質問をあっさりとかわした。

質問内容としては――ネット上で反発が相次いでいる。

【炎上商法はARゲーム独自だと? それ以前からもまとめサイトが主導の事例があったのに?】

【自分達の事を棚に上げて――】

【これは、明らかに作為的な構成をしている可能性が高い】

【元々がネット動画サイトのユーザー生放送、こういう事もあり得るのは向こうも分かっていたのではないか?】

【まるで、超有名アイドルが絶対正義――プロデューサーのやっている事は無罪とでもいうのか?】

【自分達が違法ガジェットを流通したと言うのに――】

【証拠も出ている状況で、ここまで言い逃れをするとは】

 司会の人物がどのような悪意を持って、こういう質問を投げたのかは分からない。

後に、この生放送の録画された物はARガーディアンが押収したのだが、この質問内容に関しては音声が切られていた。

その理由は不明だが、動画サイト側のガイドラインに抵触したと考えられるのだが――。

『そうした勢力を悪用し、ビジネスチャンスとしてあぶく銭を稼ぐ――いわゆる便乗商法』

『過去にミリオンセラーを記録した事もあるアイドルを、便乗商法とは――超有名アイドル警察に通報するしか――』

 ある発言を受け、コメンテーター席に座っていた彼は――席を外そうとしていた。 

次の瞬間には、セットを囲むような形で超有名アイドルファンや投資家の残党が彼を取り囲む。

どうやら、全てが罠と言う事だったらしい。罠だと気付いたのは――ここに入った段階で罠だったと言う事で、最初からだった可能性も高いが。

それを百も承知で――彼は敢えて敵の懐に飛び込んでいた。

不幸中の幸いだったのは、この番組がネットのユーザー生放送の形式だった事であり、これが全国放送だったら――。

《ARバトルフィールドオープン》

 彼のARバイザーにフィールド展開をアナウンスするメッセージが表示された。

実は――この場所の正体は、草加市内にある大手動画サイトの支部であり――会員ならば生放送用の施設をレンタルできるという物だったのである。

しかも、ご丁寧にARゲームも各種揃えられており、当然だがリズムゲームプラスパルクールもあるのだが、敢えて彼はARFPSを指定した。

相手側が得意なゲームに合わせたのか、それとも彼に選択権があったのかは不明である。



 午後2時30分、バトルフィールドの戦闘は1分も持たずに終了する。

その理由は簡単だ。彼らは相手にした人物を間違えていた――としか表現できない。

「アイドル投資家ならば、以前に起こった事件等を調べておくべきだったな」

 鉄仮面とも言えるデザインのARメットを脱ぎ、素顔を見せたのは日向(ひゅうが)イオナだった。

どうやら、別件でアイドル投資家に呼ばれていた事もあり、レースの方は意図的に順位が4位になるように調整したらしい。

何故、ここまでの事をしてまでアイドル投資家の方へ向かったのかは、彼女にしか分からないだろう。

「ARゲームは、もはや個人が私利私欲や金もうけに利用できる程の物ではなくなっている。大型コミュニティになったコンテンツの宿命かもしれないが」

 しかし、彼女は犯罪行為まがいの事でなければARゲームを荒らそうと言う勢力――アイドル投資家やフジョシ勢を許さない。

全力を持って、それを排除するだろう。例え、純粋なファンに魔女狩りと叩かれようとも。

「犯罪行為や不正手段を使ってまでコンテンツを排除するのは――許されざる行為。それは、どのジャンルでも変わらないはずなのに」

 日向の目は、わずかながらに涙が見えるような――悲しい目をしていた。哀しき悪役と言う訳ではないのだが――。

ARゲームを守る為にも動いていた彼女の目的も、終着点が見え始めていた。

それは、ビスマルクやアイオワ、他のARゲームプレイヤーも望んでいた世界である。

「ルールを守って、楽しくプレイ――か」

 あるカードゲームアニメで言われていた事――それが日向を突き動かしていたのかもしれない。

チート等に代表される不正行為のない、それこそ炎上マーケティングや便乗商法等の風評被害を起こすような要素もない――純粋にゲームがプレイ出来る環境、それが彼女の望みでもあった。



 徹仮面の人物が日向と判明しても、ヴィザールの表情が変わる事はなかったと言う。

彼はネット神とは言われているが、コンテンツ流通の為に使用料を支払う等の正当な手順で見逃し配信に代表されるアップロードを行っていたのだ。

「コンテンツ流通を妨害しようと言うのは、週刊誌報道やまとめサイトに代表されるネット炎上でもうけようと言う理屈の勢力――と言うよりも、システムそのものか」

 ヴィザールは日本で根絶すべきシステムとしてネット炎上――超有名アイドルが神コンテンツになる為の賢者の石商法――それを拡散させないように動き出した。

彼の正体は不明のまま、それに有名ランカーも彼とは会った事がないという事も――ヴィザールの都市伝説に貢献している。

一体、彼は何に対して憎悪を持つようになったのか? ARゲームにそう言った物を持ち込む事自体が禁じ手とされている為か、彼がARゲームをプレイしている光景を目撃した人物はいない。




 午後2時、アイドルプロデューサーの逮捕が一斉に報道される。

しかし、あるテレビ局は洋画を放送しており、視聴者はそちらへ流れている傾向だ。

その状況下で、唐突にある映像がARゲームのセンターモニターを通じて流れだした。

『何も起こりはしないよ。壮大に何も始まらない――全ては超有名アイドルファンが自分達の欲望や利益を優先して、コンテンツを炎上させた段階で』

 センターモニターに時限装置でも付いていたかのように流れだしたメッセージ動画、そこに映し出されていた人物は何とビスマルクだった。

厳密にはビスマルクを思わせるコスプレイヤーと言うべきか。声はビスマルクと同じだが、ボイスチェンジャー等を使っている可能性も高い。

それに、ビスマルクがレースに参戦している中でこの映像が流れる事にもおかしい物があった。

この映像が生放送ではなく、事前収録された映像であれば動画の人物がビスマルクでも問題はない。

しかし、映像の人物は顔を意図的に見せないようなアングルでカメラで撮影している。この段階で作為的な物があるのは明白だろう。

その目的は単純に風評被害狙いであれば、超有名アイドルに対して批判的なメッセージを与えるであろう彼女を起用するのは間違っている。

むしろ、ARゲームの運営妨害辺りが動画の流れた理由と察する人物が若干多い。

『あのときにも言ったはず。今度は同じことの繰り返しにならないように――我々が正さないといけないのかもしれない――と』

 この部分では、若干だが映像にノイズが混ざっているような演出があった。何故、このような回りくどい手を使ったのか?

様々な疑問は浮上するのだが――この動画を作った人間がアイドル投資家等の様な素人とは考えにくい箇所もある。

何故かと言うと、彼らは既に別の手段で超有名アイドルが唯一神だと言う洗脳放送とも言えるような事を過去に行っており、今回も――。



 午後2時35分、アイドル投資家やアイドルファン等が協力し、洗脳放送を行っていたという事実がネット上でも拡散され、超有名アイドルに対する風当たりは悪くなっていく。

このような報道がある度に思うのは、悲劇と喜劇の繰り返し――それこそ1年で新番組に切り替わるような特撮ヒーローシリーズ等を思わせる。

こうした繰り返しが本当に、コンテンツ流通の為になるのか?

本当にコンテンツ流通を正しい物にするのであれば、炎上商法の様な手段をどうして使うのか?

炎上商法の議論をしていても――ある意味でループとなり、結果が出てくる事はない。それこそ、コンテンツ流通の阻害にしかならないだろう。

炎上商法を政治献金や超有名アイドル投資に利用している事例は海外でも問題視されている――にも関わらず、この話題を今になって更に切り出そうとする。

結局、これらの議題をわずか数人の人間で解決する事自体が不可能だったのか?

これらの議題を表にする事で、ネット上で新たなルール作りを試みようとしたのが、ビスマルクの例の動画であり、ガーディアンの行動でもあった。

最終的に、これを別の形で実現させたのが比叡(ひえい)アスカ、秘密裏に敵対勢力を潰していったのが天津風(あまつかぜ)いのりや飛龍丸(ひりゅうまる)だろうか。

別のカテゴリーから問題点を洗い出そうとしたのは、もしかするとガーディアンの一部やヴィザールの様な存在かもしれない。

 ビスマルクのメッセージ動画、ARゲームについて語った動画――その真相はネット上でもまとめサイトに取り上げられた事はある。

しかし、それらが正しい意味、あるいは当初の目的通りに取り上げられた事例はない。

大半が超有名アイドルの海外進出を妨害、国際スポーツ大会等にも影響が出かねないと――超有名アイドルのステマ記事と化していた物がほとんどだったと言う。

「結局は、そのメッセージを正しい意味で理解しなかった結果――今回の様な展開が起こった。その警告を聞き入れれば、一部勢力の政治利用にコンテンツが使われる事もなかったのだ」

 この警告を以前から分かっていたのは、大和朱音(やまと・あかね)だった。

一連の行動は、ビスマルクの警告動画以前にもアカシックレコードで知っていたのだが、その作業を急ぐ必要性が出たのはビスマルクの動画が出回ってからだ。

しかし、ビスマルクの動画が拡散してからでは遅かったのかもしれない。

それとは別に保護主義を掲げるような勢力、一部のコンテンツだけが生き残ればいいとして暴走するファン――こうした動きは動画拡散前にも事例があった。

分かっていないがらも放置した大人たちにも責任がないとは言い切れないだろう。こうした負の遺産は、やがてブラックマーケットに悪用されてしまうのは明白だ。

ビスマルクは、そこまでの結末になる事を知っていたからこそ、あの警告動画を作ったのかもしれない。

「ビスマルクの動画が作られた理由――警告と言う意味だとしても、それは我々の憶測だ。パフォーマンスと言う勢力もいれば、過激派の発言と切り捨てる少数意見もある」

 大和の考えも、理由と思われる一つにすぎない。それは自分でも分かっている。

だからこそ、今までのコンテンツ流通を阻害してきたネット炎上を放置した事に――責任を感じていたのかもしれない。



 午後2時40分、トーナメントBの会場では――。

『現在、決勝レースの進行で著しい妨害行為があった事が確認されております。既に審議を始めておりますが、正式発表までしばらくお待ちください』

 アナウンス内容には誰もが耳を疑った。スコア順位は、1着でゴールしたビスマルク、2着にはリベッチオ、3着には島風朱音(しまかぜ・あかね)、4着は比叡(ひえい)アスカと言う順位に決まっている。

なお、ローマとヴェールヌイはスコア差でリザーバーが確定し――この結果だと、ビスマルクとリベッチオが決勝ラウンドと言う事になるだろうか?

しかし、そのレース進行中にノイズ、妨害行為に近い狙撃等が行われたと言う。

狙撃を行ったスナイパーは既に撃破したというのだが、その際の狙撃で島風が負傷し、ARガジェットの方も故障してしまったようだ。

「あのスナイパーの正体、分かっていたのと違うか? 比叡――」

 比叡の方に向かって接近していたのはリベッチオである。握った右手の拳で殴り飛ばしたい気分でもあった。

しかし、ここで乱闘騒ぎになればARゲームが炎上するのは目に見えており、それこそ別勢力にネット炎上のネタにされてしまう。

こうした事情もあって、リベッチオにはやりきれない気持ちもあった。

どこにぶつければいいのか分からない怒りは、やがて暴走し始め――。

「スナイパーに関しては審議をしているはず! これ以上、ARゲームの場を荒らして、それこそネット警察を名乗るつもりなの――実況者は」

 比叡の一言を聞いたリベッチオは、遂に怒りを爆発させた。

何と、背中のブーメランを展開し、それを比叡に向けたのである。この行動が狙いだと言う事を知らずに。

そして、投げる訳ではなく比叡のARメットに突きつけていた。明らかな脅迫とも言えるような流れである。

「実況者が芸能人みたいに有名になりたいがためにゲーム実況をしていると思ったら、大間違いよ! それに、実況者に対する風評被害は悪意ある信者やフジョシ勢の――」

 リベッチオは、遂に切れたと言うべきだろうか。ARガジェットでプレイヤーに傷を負わせる事はデスゲームを連想すると言う事で禁止されている。

これは以前のガイドラインにもあった項目だが、改訂後も健在だった。その為、リベッチオが比叡に傷を付ければ――アカウント凍結どころではない。

「それで同情を得たいと言うのであれば、それは私が過去に犯した過ちと一緒――自覚のない荒らしと変わらない」

 比叡の方は、哀しいような眼でリベッチオの方を見つめている。

しかし、この表情はARバイザーの影響もあってリベッチオには見えていないだろうか。

「――ならばARゲームで決着を付けるのは、どうかしら?」

 リベッチオの一言、それは――別の意味でも場の空気に乗せられたというべきなのかもしれない。

比叡は、それを引き出す為に演じていた訳ではないのだが、今の状況だとそう言う風に読みとられても仕方ないのだろう。

ネット上では悪意を持ってネット炎上させるような人物もいる。それを炎上マーケティングと言う人間もいるが――。



 午後2時45分、急ではあるが――リベッチオと比叡(ひえい)アスカのバトルが組まれる事になった。

「ゲームのジャンル指定は、そちらに任せる。リズムゲームでもいいし、エキシビション風味に別ジャンルでも構わない」

 リベッチオは頭を冷やし、ブーメランの方も既に収納している。

しかし、一時的な感情とは言え――自分が言ってしまった事に関して、反省はしているようだ。

「こちらとしても、リズムゲームプラスパルクールで対戦したとしても――と思う」

 そして、比叡がガジェットの端末をタッチやスライドを駆使して検索、その結果で見つけたのは――。

【ARアスリート】

 まさかと言えるジャンルに驚いたのは、リベッチオの方だった。

ARアスリートとは、さまざまな競技をクリアしていく物である。過去には超人スポーツ的なゲームやアニメもあったが――。

ARゲームでジャンル化できないのはネタバレが致命的となるジャンルだけ――とは良く言った物だが。

「競技は3本勝負と行きたいが、1本勝負にする。体力的な問題もあるからな」

 比叡の方はやる気である。確かにジャンルは任せると言ったが、自分もプレイ経験のないゲームが選択されるとは。

自分に有利過ぎるARゲームを選択しても、それでは逆に炎上しかねない懸念もある。それを踏まえて、選んだというのもあったのだが。

比叡の方も全ジャンルのARゲームをプレイした訳でも、完全把握している訳でもない。そこまで完璧なゲーマーがいれば、会ってみたい物である。

「その前にチュートリアルをプレイしてもいいか?」

「それは構わない。こちらとしても、未プレイの人間を倒したとしても――面白くない。それ以前に、観客が望んでいない」

 比叡は当たり障りのないような発言をする。まるで、リベッチオの表情を見て話をしているかのようだ。

周囲の観客も、比叡の言う事も一理あると言う事で――未プレイのプレイヤーを倒すのは逆に初心者狩りみたいに扱われる可能性もある。



 プレイする競技に関しては複数あり、走り幅跳び、走り高跳び、障害物競走、100メートル走等が存在する。

当然だがARガジェットの使用はチートや不正改造の物でなければ問題はない。記録の方も一般的な陸上競技よりは――タイムも早い記録が多い現状もある。

しかし、こうした記録は公式競技や陸上の世界選手権などで言及される事は一切なかった。当然と言えば当然の話だが。

【ARアスリートの記録をプロの陸上選手が破れるか――という挑戦をスポーツバラエティー番組がやった事があるのを思い出した】

【その結果は?】

【100メートル走で10秒弱――世界記録に並ばないが、陸上未経験者が出したという事で驚いていたようだ】

【結局、プロのアスリートには勝てなかったようだが――参加したプレイヤーがアマチュアであり、ランカーが参戦したら変わっていただろう】

【ランカーがテレビに非協力的だったのも、あの結果になった理由だが】

【宣伝活動が制限と言うか、禁止されていた時代だ。今は違う】

【それに、プロアスリートに近い体格の人物であればアイオワがいるだろう】

 リベッチオが100メートル走のチュートリアルをプレイしている間、ネット上では色々なタイムラインが流れていた。

【果たして、実況者がプロランカーに勝てるのか?】

【凄腕のランカーであれば、100メートル走でも8秒は出せると言う話だ】

【8秒? 世界記録更新レベルじゃないのか!?】

【それだけ、ARガジェットの補助が優秀と言う事だろうな】

【太陽光をエネルギー源にしてるとは思えない。一体、どれだけのパワーが出せるのか?】

【パワーを出そうと思えば、それこそバーベル上げ等のパワー競技でもプロアスリート顔負けの記録が出るだろう】

【ARゲームを国際スポーツ大会の種目にしようという動きがあったのは――】

【おそらく、日本政府もARガジェットの有用性に気付いたのかもしれない】

 リベッチオの走りは100メートル走で11秒台である。初見プレイとしては、まずまずの結果だ。

何回かこなしていけば、10秒を切れる所までは行くだろう。実際、実況者の中には9秒台前半を叩きだしたプレイヤーもいる。

下手にチートを使って5秒台とか4秒台を出したとしても、それこそSFアニメの話と笑われるのが落ちだろうが。



 プレイする競技は100メートル走に決まった。そして、比叡はARアーマーを軽装バージョンに変更した。

「ゲームによってARガジェットやカスタマイズを変えるのは、特に反則ではない」

「それ位、こっちだって分かってる」

「100メートル走は、基本的に直線を走るだけだ。飛行は反則として判定される。羽根は外した方が――」

「これは、単純に翼として運用する以外にも使い道がある」

 リベッチオは比叡の忠告を無視して、ウイングを展開する。

ただし、飛行システムはガジェット側でロックされた為、飛ぶ事は出来ない。

100メートル走で空を飛ぶのは――と言うのもあるのだろう。



 100メートル走が始まる前に、別のアナウンスが流れ始めた。

『この道路は、これからARアスリートの専用フィールドになります。自動車等の通行は出来なくなりますので、迂回をお願いいたします――』

 まさかのアナウンスにリベッチオは驚いた。何と、ARゲームで道路を丸ごと使用すると言うのである。

ARゲームでゲーム専用フィールドがあるのは知っているが、それ以外に実際の国道を使用するとは。

ただし、救急車や消防車に代表される緊急車両等が通る場合はARゲームの方がプレイ中断と言う事になる為、その辺りの優先度は配慮されている。

暴走族等に関しては入りこまないシステムも構築されているが、警備上の理由でこの辺りは非公開とされているのだが。

「これがARゲーム本当の醍醐味だ。覚えていておいて損はない」

 比叡の方は既に準備が出来ている。リベッチオの方は、緊張をしているようでもあるが。

「これがARゲーム――なのか?」

 リベッチオの慌てる様子を見て、過去にも同じような事があったと比叡は思った。

比叡がARゲームに足を踏み入れた理由――それを考えると、あの時のように暴走したのはなぜなのか?

「中途半端な覚悟が――いつの間にか、ARゲームを荒らす勢力と同じように捉えられる事になったのか」

 発言の重要性、ランカーとしての振る舞い、マナーを守ったプレイ――ARゲームに求められる物は、そんなに難しい物ではない。

説明書をチェックしてからプレイすれば、どれも守っているからこそ楽しめる要素も多いのも事実だ。

もしかすると、比叡はある程度同じジャンルでプレイ感覚を覚えていたからこそ、落とし穴にはまったのかもしれない。

結局、自分はARゲームでのわずかな勝利で天狗にでもなっていたのだろう。

その結果としてネット炎上勢力に間接的だが加担する事になり――あの惨劇を招いた。それは、おそらく消える事はなくアカシックレコードにも刻まれる。

「ARゲームはWEB小説にあるようなデスゲームとは違う――だったな」

 リベッチオがARメットのバイザー部分をオープンし、素顔を見せた状態で比叡に話しかけた。

その一言を聞いて、比叡は何故か涙を流し始めた。どうして――それを見落としてしまったのか。

デスゲームと言う単語やネット上での意味に縛られ過ぎた事が、彼女を追い詰めていた可能性も高いのだが――。

「何処で、踏み外したのだろうな――改めて」

 比叡はARメットのバイザーを展開し、手で涙を拭く。その後、改めてバイザーを閉めた。

「お楽しみは――これからってことね!」

 リベッチオが天に突き上げた右腕――その手の指をパチンと鳴らし、観客を盛り上げようとしていた。

それに反応し、観客の方も歓声を上げる。その観客の中には、ガーディアンのメンバーも何人か確認出来た。

その目的はそれぞれだが、フーリガンの取り締まり等が主な目的だろう。

「これだけ盛り上がっていれば、問題はないか」

「後は妨害をしようと言う勢力を探すだけだな」

 一部のガーディアンは、別会場でも確認出来た妨害をしようという勢力をさがしていた。

しかし、先ほどの狙撃犯の様な人物は見つけられない。

逆に言えば、妨害をする事が逆にコンテンツ業界をクールダウンさせてしまうと気づいた可能性も高いが――。

「ネット炎上――それで稼ごうとするノウハウが規制でもされない限りは――」

 一連のやりとりをネット中継で見ていたのは、覆面姿のヴィザールだった。彼は何処へ向かおうとしていたのか?

しかし、彼を見て指を指す人物はいないし、ガーディアンが不審者として捕まえるような気配もない。

それだけ草加市はコスプレ文化やオタク文化にも理解を示しているのだろう。だからこそ、ARゲームが成立している――そう彼は考える。

ネット炎上で稼ごうと言うのは、一部の悪目立ち勢力や――それこそ時代劇の悪代官に代表されるような連中、アウトローの勢力だろう。

そうした勢力を斬り捨て御免と言わんばかりに取り締まっていたガーディアンも、比叡の宣言によって弱体化した。

保護主義的な時代は――既に終わっているのである。今度は――別の方法でARゲームを悪用しようとする勢力を取り締まるターンだ。

「こちらとしても、強行手段を取らせるような事が起きない事を祈るが――ラグナロクのような、あの悪夢は二度と起きて欲しくない」

 ヴィザールもまた、比叡等と同じくネット炎上の悲劇を多く目撃した人物のようだ。

しかし、彼の言うネット炎上の規模は――比叡のソレとは比べ物にならない可能性は高いかもしれない。



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