射矢らた詩集

歯周疾患／ボンボヤージュ！

そしてとてもあたたかだ

春だ 陽気だ

空は薄灰色をしているが

背後からの強い陽光で

すみずみまで光がまわっている

これもよい天気と言うべきだろう

朗らかだ うららかだ

家々の庭には綺麗に刈り込まれたツツジ

子供の頃はよく花をむしりとって

その根本から甘い蜜を吸ったものだ

今舐めても甘く感じられるかどうか

公園の植栽に手を伸ばしてやめる

蜜といっしょに吸うかも知れぬいろいろのもの

そんなくだらない想像をするようになった

老いた自身の感覚に落胆する

それにしても朗らかな陽気だ

小さな橋を渡る

浅い川が流れる

瀬にチラリと動く灰色の影

野鯉！

と思って見るとボラであった

こんなところまで遡上って来るのか

大きな頭と扇型に拡げた胸鰭

あまり美しい姿とは思えず

橋をあとにする

それにしても朗らかな陽気だ

国道２号線

静かだ

車の通りも少ない

信号が青に変わる

向かいから母子連れがくる

男の子はママのスカートを握りしめ

一生懸命ついてくる

この子はツツジの蜜の味など

知らずに育つのかも知れない

君よ 伸び伸びと生き給え

それにしても朗らかな陽気だ

あっ

思い出した

歯医者に向かっているのであった

腕時計を見ると

すでに予約刻限

私はにわかに走り出す

朗らかだ 陽気だ

春だ