1000回目の彷徨
すぐ前をゆく若い三人組
大きな声で笑いあって
足取りもフラフラしてやがる
あはははは
お前なんだその点数
うるせー本気じゃねーよ
僕は邪魔に感じている
しばらくして彼らは
いっせいになにかを指差し
そこへ向かって駆けて行った
右手には老夫婦が
手に地図のようなものを携え
くるくるくるくる回っている
こっちじゃないですよあなた
でもあっちでもないだろう
ここはさっき通りましたよ
僕は道を教えたりしない
しばらくして二人は
目当ての何かを見つけて
笑いあって向かっていった
左手にはベビーカーの若いママ
たくさんの荷物を抱えて
向かい合わせに見つめる赤ん坊に
絶えず話しかけながら歩いている
ほらくまさんがいるよ
あのお花真っ赤だねえきれいだねえ
どうしたのお目めかゆいのあらあら
荷物を抱えながら赤ん坊を抱き上げる
僕は荷物を持ってあげることはない
しばらくして彼女たちは
見つけた店に入っていった
後ろから追い越していく営業マン
スーツで固め時計を見やり
颯爽と身をひるがえす
ええ、なるほど
御社の財務状況をですね
本日1時にお伺いします
電話がひっきりなしに鳴るようだ
しばらくして彼は
電話の相手に誘導されて
風のように去っていった
チラシを配っている
つまらない気持ちで受け取る
美容室のキャンペーン
女性限定30%オフ
なんだこれは
どうして受け取ってしまったのか
まったく用がない
またつまらない気持ちになった
僕も
どこかに向かって歩きたい
どこにも行くところがない
なにかに向かって進みたい
なにもやることがない
このまままっすぐ歩いても
右や左に曲がっても
どこかに行き当たるわけじゃない
僕はどうして
歩き続けているんだろう
たった一人で
どうして歩き始めてしまったんだろう
誰かを助けるわけでもなく
救いを求めるわけでもなく
なんのために
僕は歩いているんだろう
意味もなく家を出て
何も為さず帰ってくる
もう何度それを繰り返しているだろうか
歩道のわきに
金色に光るものがあった
近づいてみると
這いつくばったカナブン
ここは危ないですよ
僕が拾い上げると
予想外の力強さで指に抱きつく
街路樹に登らせてやる
お前の行くべきところへ行くといい
わずかな生涯でも
行くべきところがあることは
幸せなことだよ
赤信号で止まる
向かいの歩道にはたくさんの
それぞれ行くべきところがある人たち
僕は対峙に耐えられなくなって
ついに踵を返す
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