つぶつぶ

ずっと君のことを考えている

なにか別のことを考えていても

ふと君のことが頭を過る

それで信号待ちでも僕はフリーズして

後ろからクラクションを鳴らされた

けれどその音にすら愛情がこもっていて

信じられないだろうけど涙が出たよ

ほんとうにじわっと出たんだ

思いとどまれ、と

言われているみたいだった



千回のおはようやおやすみ

数え切れないくらいの愛のしるしが

たったひとことのさよならに

きれいに洗い流されてしまった

僕たちの棲家に残されたのは

この世のシアワセを全部抱え込んだみたいな

君と写るたくさんのスナップと

ペアと名のつくあらゆる生活雑貨

いったい僕はこれまで

なにを大事にしていたんだろう

考えても

答えが出てこないんだ



燃えないゴミを出せる日だとか

トイレットペーパーの特売日

野菜の一番安い店

紅茶の美味しい淹れ方や

ポインセチアの色づかせ方

角質の正しい取り方だとか

一番ぐっすり眠れる方法

おいしいご飯の炊き方や

アルダマなんとかってヨガのポーズ

公園の桜がいつほころび始めるか



君との暮らしという

ゆったりとした大きな川を

ごく自然に流れていたたくさんのこと

あの頃必要ないなんて思っていたことを

いまは砂金を探し当てるみたいに

ひとつひとつ思い出している

けれど残念ながら

街を去る僕にはもう

そのどれひとつ必要でない



君のことを考えよう

君とのことを思い出そう

輝くつぶつぶがたくさん流れる

この広い川の底

深く深くもぐって漂い

いつか流れにとけて消えよう

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