NOBUNAGA
@piyokichi_k
第1話
これから私が書き記そうとしていることは、かつて私の同僚だった太田生(おおたいくる)が永遠の闇に葬られる直前、秘密裏に送ってきたメモリーカードの中身、あの『信長事件』に関する動画ファイルの収録内容である。
事件から4年の歳月が流れ、何もかも謎に包まれたまま、数々の証言・証拠・報告が改竄・紛失・誤(?)廃棄され消されてしまった現在、(図らずも事件の中枢に肉迫し本質を知り得た)太田が撮影した信長本人への3度の直接インタビューと当時のニュース映像等で構成され『信長事件』の全容を物語るこの動画ファイルの貴重性は言うまでもない。
太田の望みはこのファイルがインターネットの動画共有サイトに公然とアップされ、全世界の人の目に触れることだと思う。しかし私には勇気がない。私のIT知識では必ず当局にファイルの投稿者として突き止められ、太田と同じ世界に連れ去られるだろう。
そこで私は動画の内容記録をこの暗号化したテキストとして残し、勇気と知識を持ち合わせた誰かが、これを見つけて読み解き、動画ファイルを探してアップしてくれる可能性に期待する事にした。それが臆病者の私に出来る最善の方法だと思う。許して欲しい。
★カラーバーが一瞬映る。
★黒一色の画面に赤い文字のタイトル「NOBUNAGA~信長事件の真相~」が浮かぶ。
★「第1のインタビュー」(以後いちいち書かないが全て英訳テロップも入っている)
★「5月21日 陸上自衛隊豊川駐屯地」
☆自分でカメラを持って撮影しているらしい太田の顔のアップ。額に擦り傷がある。緊張…だけではない複雑な表情が読みとれる。
「私の身は今現在、信じられない状況の中にあります。我々が歴史上の人物、戦国武将だと認識している織田信長公の軍勢に捕まって取り調べを受けているのです…先程信長公より許可を戴きましたので、これからインタビューを試みます。槍を構えたご家来衆に囲まれ余談許さない状態ですがとにかく始めてみます…」
☆カメラが大きく揺れ部屋のあちこち…床や壁、戦国武将らしき鎧姿、天井の電球などが映し出される。下半身を椅子に縛られた姿の太田が映る。
「信長様、確かに景色がここに映し出されております。」
「猿、それをこちらへ持て」
☆羽柴秀吉が取り上げたカメラを信長が所望したらしい。まばらに髭の生えたどんぐり眼の貧相な顔が一瞬映る。
「答えよ!これはどう使うものじゃ?」
「信長様に申し上げい」
「…例えば、覗かれたままで、その上にあるレバー…出っ張りを動かしてみて下さい」
「おお…なんと…バテレンの遠眼鏡のようだな」
☆画面に映った太田の顔が大きくなったり、小さくなったりする。
「決して危険な物ではございません。宜しければそれを使い、信長様のお声とお姿を手元に残したいと考えます。何卒お聞き届け下さいませ」
☆カメラが太田の顔からどんぐり眼…秀吉らしき顔に振れる。
「猿、どう思う。申してみい。」
「はは、されば、そこなる者は礼儀をわきまえ、この陣地に居た者たちよりは肝も据わって居る様子、目を覗いた限りでは嘘をついてもおらぬ様子に見えまする。」
「猿の見立てなれば間違いはあるまいが…兵では無いと言うておったな。どこで肝を鍛えた?」
「がい…外つ国の戦場にて戦の様子を書き残し、持ち帰って伝え聞かせる仕事をしておりましたので…いささか肝も据わりました。」
「戦の様子とな…そうか、わしにとっての太田牛一と同じ役目の者だな。」
「牛一は残念な事でございました。」と秀吉。
「うむ…そう言えばお前も太田と名乗ったな」
☆カメラしばし揺れて信長を映し出す。卵形の端正な顔から異様な輝きを持つ瞳がカメラを見つめている。太田の手にカメラが帰ったのだろう、先程までとは違い画角がしっかりしている。
「はい。太田生と申します。」
「わしの弓衆に太田牛一という者が居て、戦に限らずわしの近辺の事を書き記していたが…この陣地を攻める際に、あの続けて弾の出る鉄砲にやられた…」
☆信長の指し示す方に鎧兜姿の侍が陸上自衛隊の89式5.56mm小銃を構えている。
「御家来はあの銃、種子島を扱うことが出来るのですか?」
「わしの部下は阿呆ではない…火縄の種子島より扱いは簡単だと言うておった。」
「…一体、誰に扱い方を習われたのですか?」
「元の持ち主よ」
☆と、口を挟んできた秀吉にカメラは向いた。
「最初に遭うた野営の陣の見張りに立って居った兵じゃ。両耳を削いで次は鼻だと云うたら大人しく教えたわ。」
☆秀吉は表情も変えずに言う。太田が何かを飲み込むような音が聞こえた。
「何じゃ、その顔は?」
☆カメラ、太田の顔を画面一杯に撮影している。
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