第4話 謎は転ぶ(まろぶ) 其の三
「でも、マスコットが何なのかしらね?」
「マスコット......マスコット......」
呪文でも唱えるように結花は呟く。僕はもうヒントはいらないだろうと真相に辿り着くのをおとなしく待つ。
「あぁ、なんか......こう、ホワワンと浮かんでくるんだけどなぁ......」
「また結局分からないってオチでしょ?やっぱり、まだまだ子どもね......結花は」
「そんなこと......」
結花は途中で言い淀みその場で固まる。
そして数秒後、僕に小悪魔みたいににんまりと笑みを向けてきた。
「実花さん、ようやく分かったよ!携帯電話を何故忘れたのかが......」
「それじゃあ聞かせてもらおうかしら......迷探偵さんの迷推理を......」
「もう!茶化さないでよ......」
まぁ、あれだけ迷走したんだから仕方ないだろう。僕は一抹の不安を覚えながらも結花の推理を見守る。
「話を戻すけど、普通携帯を忘れたらすぐに忘れた場所に戻るか携帯に電話をかけるじゃない?」
「まぁ、普通はそうね......」
「でも......オバさんはそうはしなかった!いや、できなかったんだと思う。自分の子どもの元に早く行くことで精一杯で......」
「......どうして?」
......今度は大丈夫だろうな?
恐る恐る結花の方を見やると、その顔には待ってました!と言いそうな自信が溢れていた。
「具体的なことまではさすがに分からないから、ここからは推測になるけど......多分、学校か何処かで子どもが怪我でもしたんじゃないかな?」
「あぁ、だからお母さんは慌てて携帯を忘れちゃったのね」
「うん。それに、この推理だと店の電話と自分のスマホを使用していた件についても矛盾しないしね。スマホでは、さっき話してたアプリで運ばれた病院を検索して、店の電話では学校の担任か保健の先生と話していたって具合に......」
ふぅーっ......
無事真相に辿り着いたかぁ。
僕はひとまず胸をなでおろす。
「だから、今日あたりに取りに来るんじゃないかな、そのオバ......」
そこまで結花が言いかけた時、実花の携帯が鳴った。
「あっ、ちょっとごめんなさい......お店からだわ」
実花が立ち上がって部屋の窓側に向かう。そして、結花はというと......
「どう?今日の私の推理力なかなかでしょ?」
などと呆れるコメントをしてくる始末。
まぁ、結果良ければなんとやら......
僕は無言を貫く。迷推理力の間違いでは?と返したかったが。
電話が終わった実花は、結花の予想通り忘れ物を取りに来た女性客の応対の為、慌てて店の方へと駆けていった。
後日結花から聞いたことだが、その客はやはり子どもが体育の授業で怪我をして病院に急いでいたため、スマホを忘れたらしい。つまり、結花の推理、いや、僕の推理は正しかった訳である。
とても苦労したが。
だが、僕は満足している。人間が紡いだ魅惑な謎と戯れることができて......
結花の推理の手伝いにはやれやれではあるものの。
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