こころの在るところ
六連すばる
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冷たい秋の風が肌に刺さる。西日が差し、思わず手でさえぎる。春に彼女と見た景色とは違い、葉は落ち色もなく、太陽だけが赤く、赤く輝く。
「わたしは、来年この世を去る」
淡々と彼女は自身の余命を伝える。そこに悲哀はこもっていない。当たり前の事実を言葉にしている。ただ、それだけだ。
僕は、何も言えなかった。何も知らなかった。この二年間、彼女と過ごした日々の中で、気づくこともできなかった。
「だから、ここでさよなら」
フワリと笑った彼女は、とても美しかった。そのまま光に吸いこまれるように、僕の視線から消えた。
「ッ、ダメだ! ————さん! 」
あまりにも幻想的な光景に一歩遅れてしまった。身を宙に投げ出した彼女に向かって僕は手を伸ばす。
「————が————」
彼女は穏やかな顔で何かを僕に伝えてくれた。だけど、風の音で彼女が何を言いたかったのか、僕にはわからない。
最後に感じたのは冷たい風と、周りの悲鳴。腕の中の熱がなくなっていく感覚に、ひどくむなしさを覚えた。
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