与次郎じいさんのおはなし

笑う子

赤い糸

―――街を歩いていると、何かに引っ掛かったような気がすることはありませんか?―――


 与次郎じいさんの楽しみの一つが、散歩です。

 そして、その中にもう一つ、楽しみなことがあります。

 それは、『赤い糸』を丁寧に解いていくこと。

 大抵は真っ直ぐ綺麗に伸びているのですが、時折驚く程何本もの赤い糸がぐちゃぐちゃと絡まっていたり、いくつも結び玉が付いていたりします。

 与次郎じいさんはこのような赤い糸を見付けると、すっとその場で立ち止まり、静かに解き始めます。

 また時間がある時などは、公園のお気に入りのベンチまで引っ張って行き、座りながらゆっくりと解いて行くこともあるそうです。

 中にはあまりにも複雑過ぎて、途中でクタクタになってしまうこともあるようですが、そこは大丈夫。

 一直線にピンと張った1本の糸になるまで、最後まで諦めたことはないそうです。

          ※


 「おやおや、こんなになってしまっての。」


 この日も、与次郎じいさんは朝の散歩中に、ねじれた真っ赤な2本の糸を見付けました。

 すると、いつものように立ち止まり、優しくそれに手を伸ばします。

 もちろん他の人には何も見えていないので、何も知らない人たちから見たら、


(・・・変な老人がいる)

 

 と、思われてしまうかもしれません。

 しかし、この話を聞いてしまったあなた。

 道端でせっせと何かを解く仕草をしている老人を見掛けたら、「なるほど。」とその場を通り過ぎて行って下さい。


          ※


「・・・うむ。」


 暫くして、与次郎じいさんの口が小さく動きました。満足そうなお顔から、また一つ成功したことが伺えます。

 そして、与次郎じいさんは手の中にある赤い糸ににっこりと微笑み掛けると、散歩の続きをするために、フンフンと鼻歌を歌いながら去って行きました。


―――あなたの恋が上手くいったのは、与次郎じいさんのお陰かもしれませんよ―――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る