第6話 猫と占い師

お題:薄汚い駄洒落 必須要素:しいたけ 時間:一時間

「わたし、人に言えない恋をしていて、とってもとってもつらいんです」

巨乳の女性客が色っぽく問いかけてくる、今日二番目の占いの客だ、アラサーのOLといった感じ。

(恋ってそもそも人に言えないから楽しいんじゃないのか……)

占いの店をショッピングモールの一角に構えて半年、ついまだそんなことばかり考えてしまう私は

「わかりますぅ、女同士ですもんね!さぁ座って座って」

とつい思ってもないうすら寒い営業トークをする。

「では、カードを切ります、好きな所でストップと言って下さい」

私のタロットは当たる、……猫探しだけが得意だけど。

先が読めない時、他人の気持ちが計りかねる時、道に迷った時、人はタロットを並べ、星を見て、兆しを欲しがる。

「ストップ」

お客は声を上げた。

「では、並べます、あなたの過去がこのカードに」

現れたのは魔術師の逆位置だった。

「魔術師の逆位置、あなたは自分に自信がなかったのではないですか?」

「はい!だってあんな彼とわたし、どうやったって釣り合わないし……」

結構きつく言ったつもりなのに、笑って返された、この客、天然か、与しやすいな。

「現在は……吊るされた男の正位置、報われない思いをしてませんか?」

「はい!だって、彼ってばわたしに全然連絡くれないし……メールしても全然返事くれないし」

キャッキャッと笑う、笑っている場合ではない、このぐらいの歳の客なら、結婚を視野に入れて付き合う男を選ぶぐらいしてもいいはずだ、メールの返事もくれない男など、相手にしている暇があるのだろうか。

「未来……塔の正位置、あまりよくないですね、崩壊、災難」

「えぇっ?そんな!彼と離れるなんて絶対考えられない!!……あ、別れないか、だってまだ出会ってないし~」

出会ってもない男とはアイドルや芸能人のことだろうか、アイドルに入れあげて占って下さいという客はたまにいる、彼と客の関係を聞くと詰まるのがこのタイプ、

「失礼ですがご関係は?」

つい聞いてみる、

「……イベントでちょっと」

ドンピシャだ、なんだ、簡単な仕事だった。アイドルとこの客がどうこうなど、どう占ってもあるわけがない。

「行動、法王の正位置です、寛大な精神、援助を得る、何かあなたを助けてくれる人物が現れるでしょう」

「ほんとう?誰だろう、あの人かなこの人かな……」

ちょっといいことを言うとすぐ信じ込む、勧誘に騙されやすいタイプ、甘いことを言っていれば、きっとこれからも通ってくれるだろう。

アイドルに入れあげるアラサーを見下すのも気持ちがいい、このまま浮ついたことばかり言って帰そうか。どうせ、そうならないのだから。

「環境、月の正位置、先が見えなくなりそうです」

「そうかも、だって今こんなに彼しか見えてないのに、彼を失うこと考えたら先が見えないし」

テレビでしか知らない男を失うもへったくれもなさそうだが、なんと幼い女だろう、アイドルがなんだ、抱いてくれなければ犬猫以下だ、私の彼氏は平凡なサラリーマンだがこないだ二人で両親に挨拶に行った、同じ女同士でこの落差、あぁ気持ちいい。

「障害、皇帝の正位置、何か力を持つ人があなたたちの邪魔をします」

まぁアイドルとこの女ではねぇ、私は内心ほくそ笑む。

「あぁ!そういえばなんか彼にわたしが近づくのうざいって言ってる男が……」

まぁスタッフや何かの類だろう、そのまま夢だけ見て歳をとっていけばいいのだ、笑える。

「最終結果、世界の正位置、大丈夫ですよ、あなたの望む結果が現れます」

ここで世界、出来過ぎだ。

「よかった!あ、これ料金の他にお礼です。しいたけサンド、さっき買ったばかりだけど」

「せっかくですけれどそういったものは……」

しいたけサンドなんてゲテモノを好む女に碌な未来があるわけない。芸能事務所に騙されて貢いで寂しい老後を送るがいい。

私はちゃんとこのまま人並みに幸せになるけどね。


 それから何か月かして私は結婚するはずだったサラリーマンに振られた、まぁいい、あんなさえない男よりもっと私にふさわしい人がいるはずだ。

しかし、私自身を占ってみたが、このまま幸せになるはずだったのだが。

やはり猫相手じゃないと私の占いは当たらないのか。

もやもやした気分でふとテレビをつけるとワイドショーがやっていた。

「では、次のニュース。アイドル○○さんが電撃結婚です!」

人の幸せなどつまらない、私はテレビを消そうとする。ふと見ると見た顔

「NAICIGAMというグループで活躍していた××さんですが」

NAICIGAM、たまたまか知らないが「魔術師」の逆読みだ。

「仕事でクレーンに乗っていた一般女性と」

テレビに出た見たことのある顔、それはいつかのアイドルに入れあげてた女だった。

あの女、ガテンだったのか。確かに吊るされている。

「ビルの完成記念パーティーで知り合い」

ビルは塔だろう、

「鳳凰という中華食堂でデートを重ね」

ホウオウ違い、

「月の見えるレストランでプロポーズ」

成程、成程、ここまで占いとちょっと合っているが……

「○○さんと同じ事務所の先輩、ファンに『ライブの皇帝』と呼ばれる歌手の反対を押し切り」

そんなあだ名の歌手、いたのか。まさか、

「とにかくこの結婚、○○さんのハリウッド進出も受けて、世界的に祝われそうです」

満面の笑みで彼とテレビに写るあの女は、そういえばなんとなく猫に似ていた。

私の占いはやはり当たる、猫が相手ならば。


 ※後半三分の一ぐらいで時間切れになりました。

 ちなみに、作者に占いはできません。

 

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