第4話 幸せな家族の風景
お題:見覚えのある団欒
必須要素:1,500字以上2,000字以内
時間:一時間
ある都市で、男は沢山の家族に囲まれ、幸せに暮らしていた。
まるで何かのドラマやCMを再現したように、日本の家族の理想像のように。
庭付きの白い住宅に住み、年齢と共に現役を退き余生を趣味の研究に継ぎ込み、ときおり仕事のことに的確なアドバイスをしてくれる老父と、父の側でいつも微笑む、してきた苦労を感じさせない老母、少し前の病気の他は悪いところの見当たらない、いつも皆の事を考えている妻、愛しい娘、そして娘とは少し年の離れた可愛い息子に囲まれて。
男は毎日仕事に出かける、男の家は代々公務員で、自分が公務員になることを疑問に持ったことはない。
それは何より、父の仕事を見てきたからだった。
男は公務員の中ではいくらかは偉いほうだったが、それでも今日だけは、早く仕事が終わるようにしておいた。
彼の愛息の誕生日だったからである。
「ただいま」
「お帰りなさいあなた、材料はみんな買ってきてくれた?」
「ほら、しかしケーキも手作りとは頑張るね」
「誕生日会ですもの」
息子の友達も読んだら良かったのに、そう妻は笑った。しかし今の子どもはクラスメイトの誕生日会など行かないらしい、家族だけで行うことになった。
ケーキやご馳走が次々とテーブルの上に並べられていく、男もこれだけはと、グリルで鶏肉を焼く。
「喜んでくれるといいな」
「そうね」
玄関の鍵が開き、息子が塾から帰ってくる。
話では、息子も公務員になりたいそうだ。
「ただいま、えっお父様もう帰っているの」
「お帰りなさい」
「お前の誕生日だものな、早く切り上げたよ、鶏肉、焼けてるぞ」
「やった!お父さんの焼いた鶏肉大好き!」
「お母さんのも食べてね」
「こら、手を洗ってからにしなさい」
ガツガツと、食べ物を書き込む育ちざかりの息子を取り囲むように家族が揃う、父も母も嬉しそうで、息子の成長を喜んでいるようだった。
「ほら、お爺様から誕生日プレゼントだ」
「お婆様も一緒でごめんね」
机の上には大きな包み。
「やったあ、開けていい?」
「お義母様、あまり甘やかさないでくださいな」
取り出された少年野球用のグローブに、息子は目を輝かせている。
「やったあ!××選手のモデルだ!かっこいい!」
「がんばるのよ」
「もちろんだよお婆様!よし、さっそく明日野球に持っていこう」
「いいなぁ」
ふくれっ面の娘を、男がたしなめる。
「こらっ、机に膝をつくんじゃない、お前のは二か月前やっただろう」
「そうよ、新しいチェロの楽譜を買ってあげたじゃない」
「は~い、あ~あ、欲しいものあったのにな」
「それはどのようなものかな?」
「こら!わがままいうんじゃありません、お義父さまも、いいんですよそんなの」
娘はフォークでスパゲッティを取ろうとして、服にこぼしてしまう。
「あっ!」
という間もなく、老母がテーブルの上の台ふきんでさっと拭く。
「どうしようこれ気にいってたのに~!」
というや否や母がさっとその辺に掛かってた娘のシャツに着替えさせ、老父が汚れたそれを風呂場で洗面器のなかのお湯と洗剤に漬けた。
息子が、こぼしてしまったスパゲッティのお代わりを持ってくる。
「なにもみんなでやることなくなくない?」
「それはあるのかね、ないのかね」
「ない。ありえない、引く」
「それはね、家族みんなお前が大好きなのよ」
妻が笑った。
「だからそういうのありえないから」
皆も笑った。
「ほんとうなのにな……」
祖父が独り言ちた。
「さ、明日野球なんだ、天気、天気」
「こらっ、ご飯の時テレビはよしなさい」
「天気だけだって」
息子がテレビを付けると、天皇陛下の外国訪問のニュースが写っていた。
ピッ、息子がデータ画面に飛ぶ。
「今の陛下になってまだ一年か……」
「やったぁ××勝ってるよ!明日も晴れだ!」
男はふっと見てはならないものを見た気がして息子からリモコンを取り上げテレビを消した、今の陛下はあまりにも自分に似ていた、
「どうかしたかね」
自分を気遣う老父の胸に勲章がいくつもある。この画をどこで見たことがある。
「何かあったのかしら?」
老母が上品なスーツを着て、小さな帽子を被っている。
慌てて洗面台に立とうとして、目がくらんで……。
目が覚めたらそこは見慣れた椅子の上だった。
「どうかしました?○○陛下」
「夢を見ていたよ、我々はどこにでもいる幸福で平和な家族で……」
机の上には今日の新聞、平成という元号は書いてない。
「お言葉ですが、陛下の家族もお幸せそうに見えます。上皇が退位されてお疲れなんでしょう」
「公務の途中で寝てしまうとは、まだまだだね」
陛下と呼ばれた男は新聞に目を通した、クラスワードパズルがあった。
「○○に当てはまる人名を答えなさい」
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